♪ Concert Note ♪

2006/12/ 3 Sun.

及川浩治 ピアノリサイタル 「新・ショパンの旅」

場所:札幌コンサートホール kitara 大ホール
ピアノ:及川浩治

 日曜の午後という事もあってでしょうか、ショパン好きの日本人だから?、あるいは及川さんの人気なのでしょうか、キタラへ到着すると、「チケット完売」となっているではありませんか。 大ホールでのピアノリサイタルで「完売」の札を見ることは滅多にありません。 前回の及川さんのコンサートでは、演奏は確かに素晴らしいのだけれど、何か物足りないという感じでしたが、それでも、また聴いてみたいという、どこか不思議な魅力を感じました。 実際、なんだかんだと言いながら、もう何度も聴いています。 以前聴いた「ショパンの旅」の時は、小ホールでした。 それ以降は、ずっと大ホールでの演奏という事ですから、人気の程も伺えます。 もともと魅せる演奏をされる方だとは思っていましたが、今まではパフォーマンスが強調され、演奏とのバランスが悪い印象(悪く言えばわざとらしい印象)がありました。 しかし、今回のショパンは文句なしに素晴らしく、かつ面白かった。 及川さん、絶好調!と言える演奏会でした。
 プログラムの最初はノクターン第1番。 あの静かな曲で、及川さんの気迫がもう垣間見えて、のっけから凄い唸り声が聴こえてきました。 最初びっくりして、思わず隣の席のはじめさんを見て互いに苦笑してしまいましたが、わざとらしい感じではなく、本当に1音1音に気持ちが入っているのが伝わってきました。 マズルカ5番の後は、エチュードが3曲続きました。 演奏前に、いつものように御自信でのナレーションが入ったのですが、これもいつもより役者的というか、真面目というか、それはそれで面白かったです。 そして、10-4、10-5「黒鍵」、10-12「革命」です。 ショパンがリストに献呈し、リストの演奏を聴いてショパンが嫉妬したというエピソードを聴いて、その時のリストの演奏はこんな風だったのだろうなと思える素晴らしい演奏。 圧巻でした! 私もエチュードを練習中ですが、どうしたらこのように弾けるの?と、はじめさんに聞いてしまいました。 聞くだけ無駄でしたが... 特に「黒鍵」は以前より素晴らしい演奏で感動しました。 前半の最後はスケルツォ第2番。 全11曲です。 前半だけでも、豊かな内容と、余裕の及川さんの演奏に酔っていました。 ただ、会場は、前日に聴いた小山さんのリサイタルと対照的でした。 TVドラマの「のだめ」の影響なのでしょうか、普段クラシックを聴きそうにない人たちが多かったようにも思えます。 それはそれで結構な事なのでしょうけれど、うるさくて、及川さんの唸り声もかき消される程でした。 後半は「軍隊ポロネーズ」から。 この曲は、子供の頃からあまり好きではないのですが、今日、及川さんの演奏を聴いて、なんだか新鮮な感じがして、弾いてみようかななどと思ったりもしていました。 「英雄ポロネーズ」や「バラード第4番」などを後半は全8曲。 はじめさんは「子守歌」に感動したようでした。 ショパン嫌いのはじめさんがカツァリス以外に真面目に聴いたのを見た事がありませんので、余程、今日の演奏は面白かったのだと思います。 「魅せるなぁ」を連発していました。 本当に、演奏というのは、聴くだけではないかも知れません。 これほど魅せられたなら、やはりコンサートへ出かけたくなる人は、もっと増える事でしょう。 アンコールは、「幻想即興曲」でした。 こちらも個性的な演奏で、特に中間部は、及川さんの編曲という感じでした。 ケマル・ゲキチさんも、アンコールでノクターンの遺作をそんな風に弾いていたのを思い出していました。 もちろん、きちんと演奏できるうえでの解釈があるから支持される演奏なのだと思います。 中には、あれは「楽譜通りではない!」と怒る方もいらっしゃるのかもしれませんが、私は面白いと思います。 前日の小山さんに続き、熱い演奏を立て続けに聴けてとってもハッピーな気分で、まっすぐ家に帰りました。 

2006/11/29 Wed.

小山実稚恵 ピアノリサイタル 〈音の旅〉 第2回 「緑:思いやりと深い強さ~献呈~

場所:札幌コンサートホール kitara 小ホール
ピアノ:小山実稚恵

 第1回の7月から、あっという間に月日は経つものですね。 2回目のコンサートへ出かけてきました。 キタラでは、ピアノコンサートは小ホールで聴くほうが私は好きです。 特に小山実稚恵さんを聴きに来る客層は本当にマナーが良くて、ゆったりと音楽を聴くことが出来て、楽しかったです。 もちろん、内容も素晴らしかった! 小山さんのプログラムノートを読むのも楽しく、彼女が何を訴えたいか、その音楽とどういう風に向き合っているのかという姿勢が解り、実際に演奏を聴くと、説得力のある演奏だなぁと、深いため息が出ました。 最初はメンデルスゾーンの無言歌集より、7曲。 小山さんは深い緑のドレスでステージに登場。 暖かくチャーミングな音が流れ出しました。 Op.30-6「ヴェニスの舟歌」の美しいメロディー、きらきらとしたさざ波のようなトリルの音に、隣のご婦人も感動しているのが伝わってきます。 最後に演奏された「5月のそよ風」はクララ・シューマンに献呈された曲なのですね。 今回のテーマ「献呈」により、クララの存在がいかに大きかったかという事が解りました。 続いて、シューマンのピアノソナタ第2番 ト短調。 第1楽章の冒頭に「可能な限り速く」と指示があり、「さらに速く」、「いっそう速く」と記されている事に、小山さんは、どのように演奏すればいいのかと不思議に感じたそうです。 前回のシューマンの「幻想曲」では、思わず涙がこぼれるほど感動的な演奏をして下さった小山さんが、この作品をどのように演奏されるのかとても興味深く聴かせていただきました。 複雑なシューマンの心理と影で支えるクララの存在。 クララも、この作品が大好きで素晴らしい演奏をしたそうですが、小山さんより素晴らしかったかどうかは解りません。 後半はシューマン=リスト 「献呈」。 シューマンの歌曲集「ミルテの花」の第1曲目の「献呈」をリストがピアノ独奏用に編曲した作品です。 クララへの想いを熱烈に歌った恋歌ですね。 ピアニスティックなアレンジはリストならでは。 最後にアヴェ・マリアが優しく流れ、心に染み入ります。 最後は、本日最も楽しみにしていた、リストのロ短調ソナタです。 シューマンの「幻想曲」はリストに献呈され、その返礼として、リストからシューマンへ献呈された作品。 なるほど、第1回のシューベルトの「さすらい人幻想曲」と、ここで小山さんがおっしゃるように一つの輪に繋がっているのですね。 このようなしっかりとしたプログラム構成で12年間ものリサイタルを決行されるのですから驚きです。 スケールが大きい! さて、ロ短調ソナタへ入る前の小山さんは、今までと明らかに違い、この曲に挑むというような感じが伝わってきました。 冒頭の音を出す時の姿勢が猫というか、豹のようであり、まるで獲物を狙っているような鋭さ。 コンサートでは2回聴いていますが、女性がこの曲を演奏するのを初めて聴きました。 何年も前に音楽雑誌でピアニストの手形が掲載されていたのですが、小山さんの手のサイズは私とほとんど同じだったのでびっくりしました。 手が小さいのですね。 しかし、彼女の演奏を聴いていると、骨太で芯が強くて、あぁ私も手が小さいけれど頑張ろうとファイトが沸いてきます。 30分の壮大なドラマ、今回も沢山の感動をありがとうございました。 会場も水を打ったようにシーンとしていて、ppp~fffまでのダイナミックレンジの広いリストの傑作を、一音も逃すまいと聴き入っていました。 演奏後の小山さんの表情が印象的で、ご自身も満足されたのではないでしょうか? 素晴らしかったです! こんな大曲を演奏された後なのに、すぐにアンコールを3曲も披露してくださって、ピアニストってタフですね。 1曲目は、珍しい曲が聴けました。 クララ・シューマンの作品で「シューマンの主題による変奏曲 作品20より 主題と第1変奏」でした。 情熱的な曲でしたよ。 2曲目は「ラ・カンパネラ」。 えっと思うほど高速で、 あっという間に弾ききってしまわれ華麗にフィニッシュ。 最後は「愛の夢」で、しっとりと聴かせるあたりもプログラム構成の上手さに感嘆とさせられます。 第1回より、より充実したコンサートで、この先いったいどんなドラマが展開していくのか今から楽しみです。

2006/10/17 Tue.

ラン・ラン ピアノリサイタル 

場所:札幌コンサートホール kitara 大ホール
ピアノ:ラン・ラン

 溌剌としたラン・ランの演奏をTV放送で聴いたことはありましたが、コンサートへは初めて出かけました。 同じ中国のユンディ・リと、昨今、なにかと話題のピアニストですね。 ユンディは昨年の秋に聴いています。 その時の初めの曲がモーツァルトのピアノソナタ10番でしたが、今回も偶然同じ曲からのスタートでした。 颯爽とステージに現れて、すぅっと弾くという感じです。 無駄な緊張感が感じられず、軽やかな演奏です。 続くショパンのピアノソナタ3番でも、実にリラックスして聴いていました。 この曲でリラックスできたのは初めての経験です! その軽やかさがかえって物足りなく感じて、まだ、ラン・ランの良さがよくわからないまま休憩に入りました。 後半はシューマンの『子供の情景』からです。 私が抱いていたラン・ランの演奏とはどこかイメージが違っていて、至って真面目な演奏とでもいいましょうか、おとなし過ぎるような気がしました。 ところが、 ラフマニノフの前奏曲 変ロ長調とト短調に入ってから、演奏が豹変したのです! 今まで優しく歌い続けていたピアノから明らかに違う音質になって、「ここからは聴かせます、魅せます」という感じで、積極的に聴衆に迫ってくるのです。 続いてリスト。 『巡礼の年第2年』から「ペトラルカのソネット第104番」。 甘く熱いメロディーを、体全体でここまで表現できるピアニストは少ないと思います。 この曲を素晴らしい演奏で聴くと、「リストって、何てロマンティストな人だったのだろう」と思ってしまいます。 面白かったのが、ハンガリー狂詩曲第2番 ホロヴィッツ編。 ただでも難曲なのに、ホロヴィッツの手によって、とんでもなく難しい曲になっていました。 そして、人間離れしたラン・ランの演奏に割れんばかりの拍手! まだまだ余裕が見られます。 この後、3曲アンコールを弾いてくれました。 「Moon Light」と言ったので、ドビュッシーの「月の光」かしらと思ったのですが、お国の曲のようでした。 2曲目は、ちょっと恥ずかしそうにスコアを持って登場。 この人でもスコアを見るの?と言った感じで場内の笑いを誘っています。 そして演奏されたのが、どこか懐かしい曲。 「朧月夜」でした。 しっとりとして心地良い優しさに満たされました。 後ろの席の年配の方が「あぁ」とため息をついて感動していらっしゃいました。 曲の運びが上手ですね。 もうアンコールはないだろうとと誰もが思っていたのですが、いきなり座って超高速で「くまんばちの飛行」を弾いてしまったのには驚きました。 とういうより面白過ぎました! またまたステージに登場するラン・ラン。 私も帰ろうと思ったのですが、もう1曲?と思う程の余裕です。 ピアノに置いてあった花束とスコアを持って愛らしい笑顔で応えるラン・ラン。 やはり噂どうり凄い器のピアニストですね。 この日の計算されたプログラミングはアンコールまで聴いて納得いたしました。 ブラボー!

2006/10/ 1 Sun.

上杉春雄 ピアノリサイタル アルテの風

場所:アルテピアッツァ美唄 アートスペース
ピアノ:上杉 春雄

 春に、上杉春雄さんと池辺晋一郎さんとのジョイントコンサート《モーツァルトの奇跡》を聴き行きましたが、その時のパンフレットでこのコンサートの情報を入手しました。 美唄といえば、最近では焼き鳥がまず思い浮かびますが、若い頃、合唱団の伴奏を勤めていた時に訪れて、演奏した地でもあります。 美唄出身の世界的彫刻家である安田 侃氏の作品がたくさん展示してあるアルテピアッツァには、何年か前に家族で訪れ、楽しいひと時を過ごしました。 上杉さんといえば、プログラムにとても拘りを持っていらっしゃるピアニストで、今回もかなりマニアックな作品がずらりと並んでいて楽しみでした。
 時間に余裕を持ってアルテに到着した私たちですが、チケットは前日に完売とのことで、念のため電話予約をしておいて良かったと思いました。 それにしても、札幌から離れたこのような場所でもチケットが完売になるなんて凄いお医者さん&ピアニストです!
 プログラムの前半はモーツァルトの幻想曲 ハ短調とベートーヴェンの熱情。 手渡されたプログラムには曲目しか掲載されていませんでしたが、上杉さんの得意な解説で曲についての詳しい紹介がありました。 モーツァルトの曲は、破滅へと追いやられた女性が結局(ハッピーエンドにはならず)破滅したままで終わるという内容の、クールな曲想、一方ベートーヴェンの熱情は、戦って、戦って、最後まで戦い抜くという熱い曲想。 そのどちらも私は好きですし、対比のある組み合わせも面白かったです。 上杉さんのモーツァルトは春に聴いた時も感銘を受けました。 ベートーヴェンを聴くのは今回が初めてでしたが、私には正直ちょっと物足りなかったです。 お人柄が優しいからでしょうか、あるいは、内科医としての知的なクールさからでしょうか... 好みで言えば、熱情はもう少し野生的で情熱的な演奏が私は好きです。 特に終楽章は手に汗を握って聴くといった、スリリングな演奏を求めてしまいます。 ベートーヴェンは弾く時も聴く時も、何故か私の血が騒ぐのですが、どうしてなのでしょうね?
 後半は池辺晋一郎さんの「大地は一個の蒼いオレンジのような・・・」。 ずっと以前に有森 博さんの演奏で興味を持ち、スコアは持っているものの、私には難解で手を出さずにいた作品ですが、何故かこの曲をはじめさんは気に入ったようです。 続いて武満 徹さんの「雨の樹素猫」。 6月に小菅 優さんが演奏したチャーミングな曲です。 そして、リゲティのエチュードより「虹」。 この3曲はスコアを見ながらの演奏で、上杉さんは眼鏡をかけていらっしゃいました。 そのお姿が、どことなく舘野先生に似ているなぁという印象。 あとで、はじめさんも同じ事を思っていたと聞いて驚きました。 舘野先生も、以前は演奏前によく曲の解説を温かい声でお話してくださり、情熱的に演奏してくださったのですが、なんだか懐かしく思うような光景でした。 続いて、上杉さんお得意のメシアンのプレリュードより「風に映る影」。 アルテを歩きながら、今日のプログラムを考えたのだそうですが、その心理がこちら側にも確かに伝わってくる説得力のある演奏でした。 最後はガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」。 中学の頃、バーンスタインの弾き振りでのレコードを擦り切れるほど聴いた大好きな曲。 これをピアノ1台で弾くのは至難の業ですが、上杉さんはとっても楽しそうに演奏していらっしゃいました。 そして、アンコールのしみじみとした心に染み渡る曲がまた良かった! 300人の聴衆を熱くした演奏会で安田 侃さんも感激されていたようです。 この後、お二人のトークがあり面白かったです。

2006/ 8/ 5 Sat.

大井和郎 ピアノリサイタル ホームコンサート

場所:西川ピアノ教室
ピアノ:大井 和郎

 4月に蘭越パームホールで大井先生のコンサートを企画しましたが、その時聴きに来てくださった方、聴きに来れなかった方達からも、また企画して欲しいとの声が多くありました。 次は是非余市でという事で、会場を探しまわったのですが、残念ながら余市には、ピアノコンサートを行える適当な場所がありませんでしたので、教室を使ってホームコンサートとなりました。 もちろんこんな事は、この教室始まって以来の出来事です。
 教室は18畳ありますが、グランドピアノを2台並べていますので、コンサートの会場作りには苦労しました。グランドを1台部屋の隅に移動して、25席の会場を作り、昼と夜の2部構成としました。
 1日に2回演奏されるわけですから、ミニコンサートという内容でプログラムを先生と一緒に考えましたが、結果は内容たっぷりで、今回のコンサートを教室で聴けた人は大変ラッキーだったと思います。
 プログラムの初めは、私が希望したモーツァルトの『ファンタジー ニ短調』。 大井先生にとっても初めてのレコーディングで懐かしい思い出の曲との事。 もちろん、その演奏も聴いていますので、今回は冒頭にこの曲を是非演奏して頂きたいと思いました。 厳かな始まり、そして次第にリズミカルになり、最後はチャーミングにと、聴きどころたっぷりの演奏。 次はショパンの『幻想即興曲』。 お馴染みの曲ですが、目の前でプロが演奏するのを聴くわけですから、CDとは迫力が違います! ダイナミックな演奏の後は、ショパンの『雨だれのプレリュード』。 大井先生の歌心たっぷりな演奏に皆さんすっかり魅了されている様子、ある生徒さんのお母様は微動だにされず聴き入っていました。 そして、次はなんと、はじめさんのリクエストでハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」より『ノクターン』と『マズルカ』。 先生のCDですっかりこの曲の虜になったはじめさんですが、生で聴くことが出来て感無量との事です。 ここまでが前半。 後半は蘭越でもそうでしたが、大井先生お得意のリスト。 それもかなりマニアックな曲です。 
 初めはベルディ作曲リスト編の『サルべマリア』。 この曲は蘭越でも演奏されましたが、とても美しい曲です。 続いて、私がリクエストした『エステ荘の噴水』。 これは有名な曲ですよね。 後にドビュッシーやラヴェルに多大な影響を与えた曲です。 私もいつか弾きたい曲として、様々なピアニストの演奏を聴き、CDも何枚か持っています。 大井先生の「エステ荘」はとても美しい響きで、心に染みます。 さて、ここからが更に凄くて、鳥肌が立ちました。 再びベルディ作曲リスト編の『アイーダ』、『ドンカルロ』。 私も初めて聴く曲です。 大井先生も演奏前に説明されていましたが、ストーリー性のある曲で、壮大なオペラを見ているような気分になりました。 ピアノ1台でここまで表現できるのでしょうかといったスケールの大きな曲、そして演奏です。 リストって本当に天才だなと思うと同時に、滅多に、いえ、おそらく大井先生が弾いてくださらなかったら、一生聴く事ができなかったかも知れないこれらの素晴らしく、貴重な演奏を、私の教室、私のピアノで聴かせて頂いた事は、夢のようであり、とても幸せな事だと感じました。 それにしても、これがいつも弾いている私のピアノなのかしらと何度も思う程良い音です。 アンコールは、リストの『愛の夢』。 荘厳な曲の後で、この曲は印象的でした。 実は、曲目を決める時に、この曲をアンコールにと電話でお願いしたのですが、先生はその時あまり乗り気ではなく、諦めていたのでびっくり。 打ち上げの時に先生にその事を話したら、「だって、弾いてって言ったでしょう?」ですって。(^^; ちゃんと覚えていてくださったのですね。ありがとうございます。 私は今回は、会場の後ろの席で聴いていたのですが、皆さんがうっとりと曲に合わせて身も心も揺れているのが感じ取れました。 最後は『ラ・カンパネラ』。 速くスリリングな展開で、最後の音がまだ鳴っている時に待ちきれずに皆で拍手を送っていました。 それくらい興奮していたのです。 たった25席の50人弱の聴衆ではありましたが、そんな事は関係なく、最高の演奏をしてくださった大井先生に心から感謝致します。 演奏の内容、聴衆との一体感、感動の大きさ、どれをとっても、キタラ大ホールでのコンサートに一歩も引けを取らない内容だったと思います。 先生が夢にまで見るほど大変だったという今回のプログラムですが、本当に素晴らしいの一言です。 この後、先生を囲んでワインパーティーとなりましたが、皆さんもとても楽しそうでした。 あとで聞いたのですが、ある方の「あの時は、時間よ止まれと思った。」という言葉が印象的でした。

2006/ 7/ 6 Thu.

小山実稚恵 ピアノリサイタル 〈音の旅〉 第1回 「白:ものごとのはじまり」~ロマンへのさすらいの旅~

場所:札幌コンサートホールKitara 小ホール
ピアノ:小山実稚恵

 小山実稚恵さんのソロリサイタルを聴く機会にがなかなか恵まれなかったのですが、今回初めて聴くことが出来ました。 コンサート会場に行って、このコンサートが、実は12年間の歳月をかけて行われる24回ものプログラムの第1回目との事を知り、とても驚きました。 開演に先立ち、小山実稚恵さんが、この壮大な企画を熱く語ってくださいました。 平均律での調性は24あるということから、24回のプログラムを御自身の半生と重ね合わせながら作ろうと思ったとの事です。 そういえば以前、音楽雑誌「ショパン」で読んだのですが、小山さんはリサイタルのプログラムを考えるのがお好きで、何年分ものプログラムを並べたりしていらっしゃるとか。 それがこういう形で始まったわけですね。 始まりという事でイメージは白。 ドレスも白でした。 最初のプログラムはシューマンの「アラベスク」ハ長調と、「幻想曲」ハ長調です。 私も白というイメージで選ぶとしたら、きっとこの曲だと思い共感いたしました。 しかし、これまで小山さんはリサイタルでは、シューマンを避けてきたとの事です。 それは、シューマンがとても人間味を感じさせる作曲家で、面倒見の良いお人好しでもあり、また激しい感情をコントロールできないという二面性を持った性格で、それがはっきりと作品に出ているので、演奏していて暴走気味になったり、感情のコントロールがしにくい部分があるからだとの事です。 でも、歳を重ねると弾きたくなると。 私も同感でした。 今宵のリサイタルではこのシューマンの作品が一番心に染み渡りました。 特に幻想曲の第1楽章。 クララへのやるせない想いを音楽にした心の叫びは、この曲を勉強していた時にも感じましたが、涙が出てしまう程でした。 それからこの曲は、尊敬する舘野先生が「聖書」としている作品なのです。 久しぶりに聴いて、小山さんの熱い語りに涙が溢れてきました。 休憩の時に2017年までの123曲のプログラム解説を購入しました。(2800円)。 24回のそれぞれのイメージのカラーとテーマ。 そしてその想いが綴られていて、本当に驚くべき内容です。 それを読んでいると、隣の席の男性が話しかけてきました。 この方も時折、感動して目頭を押さえていたようでした。 小山さんの詩的な解説や演奏に心から感動していらっしゃる様子で、コンサートでこんな風に見ず知らずの方と意気投合してお話ししたのは初めての事です。 後半はショパンのノクターン第8番から。 大好きな曲です。 小山さんはちょっと速めのテンポで骨太なショパンを演奏されました。 ピリスもこんな風なショパンを演奏するなぁと思いながら聴いていました。 続いてマズルカ第32番 嬰ハ短調。 何故か好みが一致するのが恐ろしいくらいだと感じてしまいました。 ショパンの最後は「舟歌」。 「音楽の船旅」を暗示するような決意が感じられました。 プログラムの最後は先日のゲキチさんのインパクトが、まだかなり強く残っているシューベルトの「さすらい人幻想曲」で、第2回のプログラムへの"さすらいの旅立ち"との思いも込められているとの事です。 第2回は、リストのロ短調ソナタがプログラムに入っていますが、そのリストに大きな影響を与えた曲でもあります。 弾き手によって、同じ作品でもこうも違うものかと、コンサートへ行く度、またCDを聴くたびに思いますが、小山さんの演奏も熱い語り口で興味深く楽しませて頂きました。 アンコールはハ長調の曲が3曲。 バッハの平均律1番のプレリュード。 ショパンのエチュード10-1。 最後はベートーヴェンのバガテルでした。 最後の最後でちょっとしたアクシデントが発生。 音を間違えて弾き終えて、小山さんは「ムンクの叫び」のようなゼスチャーをされさたのですが、会場の皆さんはご愛嬌としか受け止めておらず、何度も暖かい拍手を送っていました。 その度に恥ずかしそうに出ていらっしゃる小山さん。 コンサート終了後、プログラムにサインを頂いてきたのですが、この時もまだ最後のミスを引きずっていらっしゃるご様子でした。 「これからも楽しみにしています」と言うと、にっこり笑って「ありがとう」と返ってきました。 何回聴けるか解りませんが、12年間の想いを込めたプログラムを共有していきたいと思った一夜でした。 

2006/ 6/ 25 Sun.

ケマル・ゲキチ ピアノリサイタル

場所:紀尾井ホール
ピアノ:ケマル・ゲキチ

 このリサイタルが聴きたくて、今回の旅行を計画しました。 前日の小菅 優さんと1日違いでしたが、小菅さんのリサイタルは、もう残席がわずかという状況だったのに対して、ゲキチさんの方は、チケットを申し込もうにも、まだプログラムも詳細も決まっていないとの事で、飛行機の手配などもあってやきもきしました。 しかし、待った甲斐がありました。 北海道から行く事を伝えると、ファンクラブの方の御好意で良い席を用意して下さり本当に感謝しています。
 そして、プログラム内容を見て、びっくりしました! なんと盛りだくさんなのしょう。 これを1回のコンサートで演奏するのかという驚きの内容でした。 ファンクラブの方からのメールには、ゲキチさんの近況報告も添えられていていました。 ライブ録音を行いながらのリサイタルとの事で、この日をワクワク・ソワソワしながら待っていました。
 プログラムはスカルラッティの5つのソナタから始まりました。 軽快な滑り出し。 楽しそうな演奏に、スカルラッティって、日曜の午後にはうってつけだなぁと感じながら聴いていました。 しかし、これはほんの序の口。 ドラマの幕開けといったところでした。 続いて、江古田で弦を切って演奏されたシューベルトの「さすらい人幻想曲」。 はじめさんは、この曲は長くて、聴くのはちょっと辛いと言うのですが、受身で聴くからそう感じるのだと力説しました。 実は、私はシューベルトのピアノ曲はそれほど好きではないのですが、この曲は別格だと思っています。 切れなめなく演奏されるこの曲は、第4楽章までの構成があり、そのドラマを聴くとあっと言う間に駆け抜けていきます。 後のリストに多大な影響をもたらし、あのロ短調ソナタが生まれました。 それにしても、ゲキチさんがこの曲を弾くと、インパクトが強い! 私は、ずっと冒頭のフレーズが頭から離れず困ってしまったくらいです。 続いて、スクリャービンの「12の練習曲」と「8つの練習曲」の中から9曲選曲され、ゲキチさん独自の順序で演奏されました。 どちらかというと、シューベルトの「さすらい人」より渋いと思う内容だと思うのですが、はじめさんが興味深く聴いていた事が私には興味深かったです。 スクリャービンというと、過度の練習から右手を痛めてしまって、あの有名な左手の名曲が生まれたのですが、この練習曲にも、左手の練習曲の拘りが感じられました。 ここで休憩。前半だけで1時間10分! 後半の内容を見たら一体どうなってしまうのだろうと思いました。 そして、その後半が始まりました。 シューマンの8つのノヴェレッテンより第1曲と第2曲。 特に第2曲はゲキチさんのパワー炸裂といった演奏でした。 しかし、この日は、ここからが更に凄かった。 ”パガニーニの「鐘」による華麗なる幻想曲”。 そうです、あの「ラ・カンパネラ」の原点となった曲で、恐らくはリスト本人以外に演奏不可能だと言われている代物。 現在知られている洗練された「ラ・カンパネラ」に比べると、何でも有りな曲で、とにかくありとあらゆる技巧の嵐なのですが、この曲を芸術的に1曲の曲として演奏会で披露できるピアニストは、はたして存在するのかと思う程の曲でした。 これを「駄作」と言う人も居るようですが、それはこの曲を弾きこなせるピアニストが居なかったからなのだと、この日のゲキチさんの演奏を聴いたら気づく事でしょう。 まさに世紀のライブ演奏でした。 ゲキチさんのこの曲に賭ける意気込みは素晴らしかった。 演奏後、ニヤッと笑って「やった!」というリアクションが在り、場内は大喝采。 こんな素晴らしい時間芸術に直面できた事に感謝したい気持ちで一杯でした。 その後の「大演奏用独奏曲」とうのも初めて聴きました。 とてもピアノ1台で演奏しきれるとは思えない程の巨大な曲を、圧倒的な強さと繊細さで演奏されるゲキチさん。 これこそが”リスト”なのだと言わんばかりの演奏に、いつしか心は1800年代にタイムスリップして、舞台の上のフランツ・リストに釘付けとなりました。 最後は江古田でも聴いた「ルーマニア狂詩曲」。 同じ曲とは思えない素晴らしい演奏。 当たり前ですが、ホールとピアノが違うとこんなにも変わるのかと痛感しました。 大拍手でステージに戻ってきたゲキチさんですが、2時間30分もの超絶で長時間のコンサート直後なのに息一つ乱れていない様子。 「ホールの時間が過ぎてしまっているので、もっと弾きたいのだけれどアンコールはショートワンね。」と言いながら、もう1曲弾いてくれました。 アンコール曲は鍵盤に手を置いた瞬間に解りました。 ショパンのノクターン遺作cis-mollでした。 
 コンサート後サイン会があるとのこと。 コンサートが始まる前に、私はゲキチさんのDVDとCDがセットになったものを購入していたのでサインを頂く事にしました。 (CDとDVD)両方にする?とゲキチさんに尋ねられ「勿論!」と答えるとニコニコスマイルで応じてくれました。 帰宅してこのDVDを見たのですが、これも凄まじかった。 「魔王」そのものでした。 怖っ!でも、カッコイイのですよね。 これからも大いに楽しませて下さい。  

2006/ 6/ 24 Sat.

小菅 優 ピアノリサイタル

場所:フィリアホール
ピアノ:小菅 優

 リストの超絶技巧練習曲より「マゼッパ」を練習していた時、日本人女性で超絶技巧を全曲レコーディングしていると話題になっていたのが小菅 優さん。 TV放送もあり、とても魅力的な若きピアニストだなと思いました。 なかなか生演奏を聴ける機会はありませんでしたが、今回は東京旅行中に聴くことができて嬉しかったです。
 プログラム内容だけを見ると、小菅 優さんでなければ聴きに出かけなかったかもしれないと思うほどの渋い選曲。 しかし、流石は小菅 優さん。 あっという間に聴衆を虜にしてしまいました! 確かな演奏技術だけではなく、言葉ではうまく説明できない人を惹きつける魅力を感じます。
 最初は、朝晩には必ず弾くというバッハから「シャコンヌ」(ブゾーニ編)。 堂々と気品の溢れる演奏です。 続いてモーツァルトの幻想曲二短調。 とても小気味の良い演奏で、思わず身を乗り出して聴いていました。 最近リリースされたCDでは、モーツァルトのピアノコンチェルト9番と21番で、新境地を開拓されていらっしゃるとのことです。 前半の最後はベートーヴェンの幻想曲作品77。 これは初めて聴く曲でしたが、優さんの日本人離れしたテンポ感、躍動感、スケールの大きさをまざまざと見せてもらいました。 ソナタの全曲演奏を考えているということで楽しみですね。 私は、朝からハードなスケジュールでかなり疲れていたので、休憩はいつものように、ちょっとビールを頂いて気合を入れました!? 後半は、武満 徹さんの「雨の樹 素猫」というチャーミングで短い曲から。 続いてシューマンのダヴット同盟舞曲集。 舘野先生のお気に入りの曲なので、弾いた事はありませんが、時々聴いています。 シューマンが自身の性格を2つに分け、曲ことにイニシャルでサインしているのです。 「F」はフロレスタンで、活発で行動的。 「E]はオイゼビウスで、物静かで瞑想的。 私は、シューマンが分裂症だったという事と文学青年だったという事に、もの凄く興味があって、シューマンの作品を自分なりに研究した時期がありました。 作曲家の中で一番「ファンタジー」を感じます。 数々の作曲家の中でもシューマンの「ファンタジー」が一番好きです。 フロレスタンとオイゼビウスの気持ちになって18曲を楽しく聴かせてもらいました。 小菅 優さんとういと、やはり私はリストが聴きたかったのですが、今宵の渋いプログラムも彼女の魅力を十分に堪能できました。 ノリノリの聴衆の様子を見ても、いかに彼女の演奏が人を惹きつけてやまないものかということがわかります。 アンコールは、今「ファンタジーに拘っている」とうことでラフマニノフのファンタジー。 これも初めて聴きましたが、短くてチャーミングな曲です。 最後はモーツァルトのソナタより第2楽章。 子供の頃に練習した事がある懐かしい曲。 若くして最愛のお母様を亡くされた優さんですが、暖かく美しい響きは天上のお母様にもきっと届いているのではと思いました。 これからがますます楽しみなピアニスト小菅 優さん。 今度は札幌へも是非来てください。

2006/ 6/ 23 Fri.

ケマル・ゲキチ ピアノリサイタル

場所:武蔵野音楽大学ベートーヴェンホール
ピアノ:ケマル・ゲキチ

 昨年、リストセミナーに参加した時に知ったピアニスト、ケマル・ゲキチさん。 何故、それまで知らなかったのだろう、不覚だった!と思わず反省するくらい衝撃的なピアニストです。
 今回は、武蔵野音大の公開講座としてのコンサートで、自由席ではありますが、一般の人も聴けるとの情報を得て足を運びました。 リストの超絶技巧練習曲が全曲入っている内容が、1000円で聴けるなんて、なんとラッキーな事でしょう!
 この日は甲府旅行からの帰りで、ワイン2本を含む大荷物で、駅のロッカーに預けようとしたのですが、ロッカーは見当たらず、ホールにもクロークが無いという事でまいりましたが、通路に面した席を確保して、足元に荷物を置いて無事に聴く事ができました。 隣の席は予約席になっていて、はじめさんが小耳に挟んだ情報によれば、ゲキチ婦人らしいとの事。 どんな人かと聞くと、「ゲキチを奥さんにしたような人(byはじめ)」と言うではありませんか。 なにそれ?と思っていると、本当にそんな感じの方が隣席に。 はじめさんの表現に妙に納得してしまいました。 プログラムの最初はシューベルトの「さすらい人幻想曲」。 部厚い音がホールに轟きます。 まもなくして、「バチーン」と鋭い音がしました。 なんと弦が切れたのです。 演奏時間の長い曲でしたから、ゲキチさんも気が気ではなかったのではないでしょうか。 ライブで弦が切れたのを見るのは初めてです。 すぐに調律師さんが修理に入り、場内は騒然となりました。 はじめさんは、ホールの残響が長すぎて酔いそうだったそうです。 確かに残響が長く、せっかくの演奏が、音が重なり過ぎて濁ったようになり、もったいないと思いました。 10分程で演奏は再開され、次はリストの超絶です。 全12曲ですが、休憩を挟んで、まず8曲が演奏されました。 CDも持っていますが、流石にライブの方がずっと面白いです。 これでホールが良ければ....。と思いました。 ゲキチさんも、苦労しているようで、「マゼッパ」の装飾音がたくさん出てくる場面では、多分、音が重なり過ぎて聴き取り難かったのか、唯一、ヒヤッとした場面でした。 でも、ここからが凄い。 続いての「鬼火」は音を見事にコントロールして快演。 凄まじい迫力の「狩」。 それぞれの曲の最後の音が消え入るまで、鍵盤から手を離さないで音を確かめているようでもありました。 休憩中に通訳の方を通して、「(弦が切れそうで)思い切って弾けない」とおっしゃっていたとか。 とてもそんな風には思えない演奏でしたけど。 後半は「回想」から。 ゲキチさんの魅力は、誰にも出せないような凄まじいフォルテッシモと、このうえなく美しいピアニッシモを自在に操れるところにあるのではないでしょうか。 エレガントで甘い調べで、はじめさんはとっても気に入っていたようです。 私はマゼッパや10番などの情熱的な短調の方が好きですが、はじめさんは「回想」や「夕べの調べ」の長調が好きだということです。 演奏会で12曲を聴く機会は滅多にありません。 本当にラッキーでした。 最後はリストのルーマニア狂詩曲(ハンガリー狂詩曲 第20番)でしたが、これがもう最高! 当時、ルーマニアという国は存在しなかったけれど、この曲の主題はルーマニア地方の旋律なのだそうです。 そして、リストはこの曲を出版せず、20世紀になってバルトークが世に出したという曲なのです。 こんな素晴らしい曲を何故出版しなかったのか解りませんが、バルトークとゲキチさんの演奏に感謝いたします。 プログラムの内容も凄かったですし、アクシデントがあったにもかかわらず、アンコールは3曲も演奏してくださいました。 ショパンのノクターン遺作cis-moll。 最近、この曲をよく聴きますが、ゲキチさんの演奏は独特。 ショパン作曲、ゲキチ編ともいえる演奏で面白く、素晴らしかったです。 2曲目は「エオリアンハープ」。 綺麗! 内声の音を引き出す事で一層美しさが広がり、聴き惚れました。 最後は小平でも聴いた、ゲキチさんがアンコールでよく演奏されるシューベルトの「セレナーデ」、リスト編です。 私も何度となく練習しているのですが、ゲキチさんのように美しく弾けたらなぁと、ため息がでました。 25日の紀尾井ホールがますます楽しみになりました。

2006/ 6/ 8 Thu.

有森 博 ピアノリサイタル2006

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:有森 博

 昨年の8月に有森 博さんのリサイタルを聴いて、あれ?少し感じが変わったのではと思っていたのですが、今回はあまりにもスタイルが変わっていて、とにもかくにも驚きました! もしかすると椅子が無くても平気なのでは?という、あの有森さん独特の演奏フォームが普通になりつつありました。 しかしながら、歳を重ねた時にこのフォームで大丈夫なのかしらと、余計なお世話なのかも知れませんが心配もしていましたので、なんとなくわかるような気もします。 今は改革の段階なのかも知れませんね。 長い事、彼の演奏を聴いていますが、今回は、フォームに伴って音の改革もしている様に感じられたリサイタルでした。 特にこだわっているのはp(ピアノ)。 聴き取れるかどうかとういう程のピアニッシモを美しく鳴らすのは至難の業だと思いますが、これにもの凄く拘っているように感じられました。
 プログラムの前半は《ロシアンピアニズム》。 素敵な作品が並んでいるのですが、この日は朝早くからの健康診断のため寝不足で睡魔との戦いでもありました。 グリンカ(バラキレフ編曲)の「ひばり」。 チャイコフスキーの「舟歌」など美しい作品を聴きながら夢うつつとなっていた私です。 後半は《名曲の誘惑》と題して、名曲の数々。 休憩で少しビールを飲んで気分転換できたのが良かったのか、もう眠気は全くありませんでした。 前半に続いて小品が多い中、最後のショパン3曲。 得にバラード第1番、英雄ポロネーズは素晴らしかったです。 ただ、スタインウエイの音にしては、p(ピアノ)の音の素晴らしさに対して、逆にf(フォルテ)が鳴っていない印象がありました。 以前の有森さんの演奏とはここが大きく違っているように感じました。 それに伴ってポリフォニーの甘さも感じられ、今は試行錯誤の段階であると思いました。 とはいえ、アンコールで演奏されたドビュッシーの「月の光」は場内からため息が漏れるほどの美しい演奏でした。 いつもサービス精神溢れる有森さん。 今宵もアンコールを4曲も演奏してくださいました。 最後は、ショパンのノクターン遺作cis mollで、今の有森さんが為さりたい事を訴えかけているように感じとれました。 こちらも情緒に溢れ素敵な演奏でした。 今後どういう風に変わってくのか、興味があるピアニスト有森 博さんです。 

2006/ 5/12 Fri.

舘野 泉 ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉

 左手のピアニストとしてご活躍されるようになって、2回目の舘野先生の演奏会へ出かけました。 TVで「奇跡のピアニスト」としての話題が出るたび、左手のみで演奏される事だけがクローズアップされて、正直なところ複雑な気持ちでいます。 舘野先生はもともと素晴らしいピアニスト。 それ以前の先生の事を知っている者として、前回は復帰されただけでも嬉しかったのだけれど、今回は右手の回復を期待したいと切に思いました。
 今回は4人の日本人の作曲家が先生のために作曲された作品を先生が弾くという演奏会でした。 最初は、吉松 隆さんの《タピオラ幻景》。 吉松氏は、シベリウスを愛する盟友でもあり、舘野先生を敬愛していらっしゃるとか。 タピオラとシベリウス。 タピオラとは、フィンランドの神話に出てくる森の神タピオが棲むところ。 1曲目の「光のヴィネット」が流れると、かつて目にしたフィンランドの様々な光景が蘇ってきました。 もう10年も前の事ですが、シベリウスのアイノラの山荘を訪れた時、舘野先生が扉を開けて迎えてくれました。 そして、暖かい人の声のような音がするシベリウスのピアノで演奏してくださったのです。 本来は誰も演奏する事を許されないシベリウスのピアノ。  館野先生だけが弾く事を許されているのです。 昼間でしたので、ちょうど窓から真っ白な雪景色が見えて、とても幻想的な風景でした。 演奏会が終わって、外へ出てシベリウスのお墓まで歩きました。 雪がきゅっきゅっと鳴り、ダイヤモンドダストの中を先生が歩く風景がとても絵になっていたので写真を撮らせて頂きました。 そんな事を想い出しながら聴き入っていると、5曲目の「風のトッカータ」が終わりました。 吉松氏は ”「左手だけ」のために書いたつもりはない。 ふたたび両手で演奏していただける日の来る事を願って。”(プログラムノートより) と、おっしゃっています。 続いて、先生と芸大で同期の末吉保雄氏の「土の歌・風の声」。 セヴラックを共に敬愛する事で繋がりがあり、この曲が生まれたという話です。 でも、ちょっと私には難しく感じました。 休憩の時、奥様のマリアさんの姿が見えました。 先生は歩くときにかなり右足をかばっているようですので、ご同行されているのだと思いました。 フィンランドでの先生のコンサートの打ち上げで、私はマリアさんの隣の席だったのですが、お話の中で、私が「ムーミン」の発音がなかなか出来なくて、マリアさんに何度もやり直しさせられた事が、懐かしく想い出されます。 後半は、林 光氏の「花の図鑑・前奏曲集」。 8曲の短い曲で構成されています。 時折、先生はご自身で譜めくりをされるのですが、この時もやはり左手。 だんだん右手が懐かしくなって切なくなり、曲の事はあまり覚えていません。 ごめんなさい! 最後は、なんとジャズ。 タンゴがお好きな先生ですから、谷川 賢作氏の「スケッチ・オブ・ジャズ」が完成した時、にこにこ顔になっていらっしゃった事でしょう。 2曲目の「ラウンジ・ミュージック」(サンソン・フランソワに)という曲が興味深かったです。 谷川さんは、なんとなくフランソワと舘野先生がだぶってしまうとお感じになっているようです。 舘野先生も、ちょっとヤクザ!?なフランソワに興味がおありで、「フランソワのショパンの24のプレリュードが面白い!」と、先生が書かれているのを何かで読んでCDを購入してみましたが、確かに面白い演奏です。 評価が真っ二つに分かれる不思議なピアニストですよね、フランソワって。 私はけっこう好きです。 こうして、邦人4人のめずらしい演奏会を聴いたわけですが、どこか物足りなさを感じていました。 アンコールにスクリャービンの「夜想曲」が演奏されると、ようやく先生本来の音が聴こえてきて、失礼ですが、曲の質感があまりにも違うと思いました。 はじめさんも同じように感じていたそうです。 アンコールは2曲演奏され、先生は拍手に応えて、何度もステージに登場されました。 でも、お顔がにこにこ笑顔の以前の舘野先生ではありません。 お声も聞けず、いつも元気にアンコールを弾いてくださった頃の先生を想い出してしまうと淋しくてたまりませんでした。 先生も同じお気持ちだったのでしょうか? リハビリをしても、なかなか元に戻ってくれない右手、一番辛いのは先生だと思いますが、左手だけとは思えない内容で、先生の演奏が聴けるだけでも喜ばしい事ではありながら、なんとも切ない気持ちになった演奏会でした。 

2006/ 4/19 Wed.

池辺晋一郎&上杉春雄 《モーツァルトの奇跡》

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
トーク&ピアノ:池辺晋一郎
ピアノ:上杉春雄

 モーツァルト生誕250周年記念ということで、企画されたコンサートでした。 N響アワーでお馴染みの池辺晋一郎さんと、既に何度かConvertNoteにも登場している、ピアニストでもあり、医師でもある上杉春雄さんの楽しいコンサートです。 プログラムを読んで、池辺晋一郎さんの仕事場が札幌にあるということを知ってびっくりしました。 もう15年になるのだとか。 全く知りませんでした! 
 第1部は池辺晋一郎さんの軽快なトークで「モーツァルトのメロディの不思議」について。 池辺さんがピアノを使ったお話で、音の魅力や音楽創作の秘密をわかりやすく解き明かしてくださいました。 お馴染みのオヤジギャグ連発で会場からは笑いが絶えません。 まるでN響アワーを見ているような気分です。 そして、わかりやすい解説は流石で、なるほど~と会場の皆が納得していました。 モーツァルトと同業者である池辺さんですが、作曲するということは意思を持った生き物との会話のようなものだとか。 そして、その会話がいつもうまくいくとは限らず苦労することも少なくないのだけれど、モーツァルトは、その音との会話を常に自然にやってしまった人なのではないか。 と、プログラムノートに記載されていました。 第1部の最後にお話の題材となったピアノ協奏曲K467第2楽章を上杉春雄さんと連弾されました。 お話の中で、曲のメロディは、4小節とか8小節など偶数単位である事が多く、3小節だと何かが足りない感じがしたり、5小節だと何かが足されているといった感じがするものなのだそうですが、この曲は3小節単位で書かれていて、しかも上杉春雄さんも、池辺さんに言われるまで気にならなかったというほどに、3小節が自然に感じる珍しい曲だと解説がありましたので、そのあたりも注目(注耳?)でした。 言われてみると、なんだか不思議な事がいっぱいで、音楽の奥深さを感じました。 ピアノパートは上杉さん。 オーケストラパートは池辺さん担当で、池辺さんは流石作曲家といった感じで、何とピアノ譜ではなく、オーケストラのスコアを見ながらのピアノ演奏です。 素敵な音楽を楽しませて頂きました。
 第2部は上杉春雄さんによるミニリサイタル。 選曲は池辺さんがされたようですが、以前TVで院内演奏の模様が放送された時のプログラムとほぼ一緒だった事に、上杉さんも驚かれたとか。 モーツァルトが神童と騒がれた時代の後、パリに移って一転売れない作曲家として苦しい日々を送っていた時代のモーツァルトの作品が中心で、あのモーツァルトにもそういう時期があり、それを乗り越えて今私達が知っているモーツァルトがあるのだという事を知ってもらいたいという意味も込められての選曲だったそうです。 上杉さんの解りやすいトークも興味深かったです。 最初は「きらきら星の主題による変奏曲」。 私は丁度ピアノを見下ろす位置の席だったのですが、ハンマーが弦に当たるのが見えて、それを目で見つつ音楽を聴くのが面白かったです。 次は「ピアノソナタK310より第1楽章」。 モーツァルトは2曲しか短調の作品を書いていませんが、どちらもモーツァルト作品の中で好きな曲です。 このイ短調は「悲しみが駆け抜けていく」という感じだとか。 続いて「幻想曲ハ短調K457」、「ピアノソナタK331 トルコ行進曲付き」。 上杉さんのモーツァルトはTV放送の時から惹かれる演奏でしたが、実際の生演奏に触れる事ができて嬉しかったです。 もしかすると、こんなに真剣にモーツァルト作品を聴いたのは初めてじゃないかしらと思う程、心が洗われる気分でした。 最後は池辺さんとの「連弾ソナタK381」。 池辺さんは、「演奏している方が楽しんじゃって申し訳ありません」。と、ご機嫌でした。 時計はすでに午後9時を回っており、駐車場(9時半まで)が心配となる時間でしたが、アンコールの連弾も聴く事が出来て楽しい演奏会でした。

2006/ 4/ 2 Sun.

大井和郎 ピアノリサイタル

場所:蘭越パームホール
ピアノ:大井 和郎

 昨年、リストのパガニーニエチュードを調べているうちに大井和郎さんの事を知りました。 改訂版でさえもあまり録音されていない曲集。 しかも、あのホロヴィッツでさえ弾けないと言った(と言われている)初版と合わせた完全版を日本人で初めて録音したピアニストです。 きっかけは大井先生の質問掲示板。 その後、メールでやり取りした事が今回のリサイタルに繋がりました。 が、まさか本当に実現するとは自分でも思いませんでした! まず、余市町にはクラシックコンサートを開くような場所が無いのです。 諦めかけていた頃、札幌コンサートホールが出来る前によく通っていた札幌パームホールが、蘭越町にて復活したという話を思い出しました。 昨年の秋に実際に訪れてみて、ここなら行けるかも知れないという感触を持ち、 ホール所有の金子氏のお陰で、コンサートを企画するという貴重な経験をさせて頂きました。 そんなこんなで実現したコンサートでしたが、コンサートの前日に大井先生が私のピアノで練習する事になり、楽譜を一冊もお持ちでない事にまずびっくり。 そして、「ハノンを貸して下さい」とおっしゃるのにまたまたびっくり! 一体、どんな練習をされるのかと思いきや、ハノンの一番が鳴り響き、家族は唖然。 そして、1冊すべて一気に弾き終えてからリサイタルの曲をさらって練習はおしまいでした。 蘭越でのリハーサルも同様。 当日のピアノのコンディションがあまり良くないようで、本番前にちょっと緊張が走りましたが、コンサートはベートーヴェンのピアノソナタ「月光」からスタートしました。 厳かな音がホールに響くと、会場の空気は昼間から夜の雰囲気へと移り行くのを感じました。 激しく情熱的な第3楽章に続いて、ショパンのノクターン第5番。 しっとりと叙情的な音楽は昼間のサロンコンサートを一際優雅な時間に。 前半の最後はショパンのバラード第3番。 こちらも優雅な旋律で大好きな曲です。 開演前に「このピアノは誤魔化しがきかない」と先生がおっしゃっていたけれど、やや緊張気味に前半の演奏が終了。 その時点で聴衆は興奮していましたが、先生の緊張が感じられましたので、同じ音楽に関わる者として、このままの雰囲気で後半に入ってはもったいない!と思い、先生と少しお話をさせていただきました。 そして、その想いが伝わったのか、後半は、リスト弾きとしての第一人者である大井先生の本領発揮、鋭敏でダイナミックなタッチの上に豊かな表現が展開する、先生ならではのピアニズムを聴く事ができました。 後半の曲目は、「瞑想」「即興曲」、ベルディのオペラ編曲の「サルベマリア」「トラヴァトーレ」「エルナーニ」と私も知らない曲ばかりのマニアックなプログラムです。 果たしてそれが蘭越町でどういう反応があるのだろうかという興味と緊張で、固唾を飲んで聴き入っていましたが、大井先生の魂が入った演奏は、それが初めて聴く曲であるとか、知らない曲だとか、そういう次元を超えたのだと思います。 会場は熱狂し、本来なら拍手が入らない4曲目で、もう抑えられなくなって皆で拍手を送ったのです。 その瞬間、聴衆とアーティストが一体となる数少ない状況に私は遭遇しました。 続いてラストの曲も素晴らしい演奏で弾き終えられ、すっと立ち上がりにこっとされる先生の表情と、会場の心からの拍手に、コンサートの成功を確信しました。 アンコールは、マネージャーの特権で予めお願いしていたダカンの「カッコウ」。 これが大受け! 拍手が揃って、アンコールを要求します。 最後は当然リストでしょう。 こちらも実は厚かましくお願いしていた「ラ・カンパネラ」。 演奏会を閉めるのに最もふさわしい曲だと思いました。 あとで伺ったら、先生はもう一曲くらい弾きたいお気持ちだったとか。 もちろん会場もそれを望んでいましたが、それは次回へのお楽しみとなりました。 コンサートの後、もっと聴きたい、また企画して欲しいというご意見を沢山頂きました。 色々な苦労はありましたが、自分が関わったというだけでなく、内容的にも忘れる事が出来ない演奏会となり、本当にお引き受けして良かったなぁとしみじみ思い、感慨深い一日でした。 
 このコンサートが実現できたのは、会場を提供してくださっただけでなく、様々な手配をしてくださった蘭越パームホールの金子さん、余市から車で蘭越まで聴きに来てくださったみなさん、そして何よりも、先生からのお申し入れとは言え、初めての土地、会ったことも無い私を信じて、単身「北斗星」でお見えになり、素晴らしい演奏を披露され、嵐の様に去っていった大井先生に感謝いたします。 どうもありがとうございました。

2006/ 3/ 5 Sun.

清水和音ベートーヴェンを弾く ベートーヴェンピアノ作品 連続演奏会#9

場所:札幌コンサートホール  Kitara 小ホール
ピアノ:清水 和音

 ピアノ教師になって間もない頃、若いピアニストの演奏をしばしば聴きにいき、多くの刺激を受けました。 清水和音さんも、その一人です。 確かカワイ主催のコンサーで、小さいお子さんが多く、会場がうるさかったのを記憶していますが、コンサートが始まって2、3曲したところで、清水和音さんが会場を睨み指を指して「そこ、うるさい。今すぐ出て行きなさい!」と一喝。 数多くのコンサートを聴きに行っていますが、このようなハプニングは後にも先にもそれっきりです。 流石に会場は水を打ったようにシーンと静かになりました。
 若き日の清水和音さんは聴衆に挑むような目で「自分の音楽を聴いて欲しい」と訴えかけているように感じられ、熱い演奏でした。 特にアンコールでの演奏が感動的で、何という曲だったのか知りたくて、私としてはめずらしくCDを購入してサインをして頂く時にお尋ねしたら、その曲はラフマニノフの「ヴォカリーズ」アール・ワイルド編曲とのことでした。 「〈若きヴィルトゥーゾ、清水和音〉 ”ラ・カンパネラ”」というアルバムを購入したのですが、アンコールで弾かれる曲を中心にしたもので、今でもお気に入りのアルバムです。
 前置きが長くなりましたが、今回はそれ以来のコンサートで、今やすっかり大家的なピアニストとなった清水和音さん。 貫禄もついて若き日のイメージとは随分違います。 プログラムの最初は、ベートーヴェンのピアノソナタ第7番。 何故か、ここのところこの曲を連続で聴いています。 リスト音楽院のラントシュ先生、ワッツ、エルバシャ。 演奏時間は約25分で「熱情」よりも長く、この作品で聴衆に感動を与えるのは、凄く難しいと私は感じています。 案の上、隣のはじめさんを見ると眠っている! 続いて「テンペスト」。 これはスリルのある作品なので、どうかと思って聴きましたが、とても落ち着いて聴き入ってしまい、若き日の、あの清水和音氏はどこへ行ったのかと思う程でした。 休憩の時、ワインを飲みながら、はじめさんに感想を聞くと、「みんな寝ていた」と一言。 プロというのは厳しいものです。 後半に期待しましょうということで、まず第20番。 中学生の頃に弾いた可愛らしいソナタ。 チャーミングな演奏で会場もようやく活気だってきた感じ。 そして、「熱情」。 この流れはとても良かったです。 今まで抑えていたかのような分厚い音、どこから出てくるのかと思う程のフォルテが会場を震わせます。 終楽章を終えて熱い拍手が送られました。 ベートーヴェンの作品の後、アンコールにショパンのノクターン16番が流れると、空気ががらっと変わって切ない気持ちでいっぱいになり、このあたりのショパン効果は絶大だなと改めて感じました。 それにしてもエレガントな演奏で素敵でした。 続いて、「ジャ~ン!」と鳴り、英雄ポロネーズを持ってくるあたりも受けは絶大で、ベートーヴェンよりもアンコールのショパンの方が今回は聴衆も興味深く聴き入っていたようでした。 若き日の横山幸雄さんにも感じた「聴衆に挑む目」。 あの頃の清水和音さんの野心的な演奏の方が、今の貫禄があって落ち着いた感じを与えるような演奏よりも私は好きだなぁと、ちょっぴり昔を懐かしむ気分になった演奏会でした。

2006/ 1/ 9 Mon.

Kitaraのニューイヤーコンサート 2006

場所:札幌コンサートホール  Kitara 大ホール
指揮:井上 道義
ソプラノ:森 麻希
メゾソプラノ:井坂 恵
管弦楽:札幌交響楽団

 今年初めてのキタラでのコンサートです。 ニューイヤーコンサートといえば、元旦に衛生中継されるウィーン・フィルコンサートを毎年欠かさず見ていますが、このコンサートは、その札幌版といったところでしょうか。
 昨年のバレンタインコンサートで指揮者の井上 道義さんの指揮ぶりに興味を持ち、今回もそれがお目当てで出かけたのですが、やっぱり井上さんの指揮とトークは面白素敵です。
 2006年はモーツァルト生誕250年ということで、プログラムの最初は、20世紀を代表する作曲家シュニトケの「モーツァルト・ア・ラ・ハイドン」という、とてもユニークな曲でした。 いきなり場内が暗転、静かに演奏者が一人ずつ演奏しながら登場。暗いので良く見えませんが、音が徐々に増えていきます。 しばし、調律とも演奏とも思える音が続いた後、井上さんの、「新年明けましておめでとうございます」の声とともに、パッと明かりがつき、少人数の弦の編成で、立ったままの動きのある演奏から始まりました。 全体としてどこがモーツァルトなのだろうという感じの曲想ですが、途中数小説だけ聴き慣れた交響曲第40番のフレーズが登場すると、井上さんが客席を振り返って、「ほらね」といいたげな仕草です。 続いて、モーツァルトのオペラ『羊飼いの王様』より「穏やかな空気と晴れた日々」。 素敵な衣装のソプラノ歌手が登場して華やかなステージとなりました。 そして、有名な『フィガロの結婚』より、「恋とはどんなものかしら」「自分でも自分がわからない」の2曲。 今度はメゾソプラノ歌手が男装で登場。 見ていても楽しかったです。 前半のラストは、ヨハン・シュトラウスⅡ世の「春の声」。 管弦楽曲として演奏される事が多いですが、ソプラノ歌手の歌が入って一層ステージが華やぎました。 こちらがオリジナルだそうですが、私は歌付きを聴いたのは初めてでした。 休憩で珍しく私はビールを頂き、ほろ酔い気分で後半の演奏を楽しみました。 ヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇『こうもり』序曲からです。 華やかなオペラの世界を垣間見る事が出来る作品ですね。 続いて、”演奏される事は少ないですが、せっかく北海道へ来たのですから”と、ヨーゼフ・シュトラウスのいポルカ・シュネル「冬の楽しみ」。 次にもう一人の偉大なシュトラウス、リヒャルト・シュトラウスの歌劇『ばらの騎士』より「ワルツ」と「二重唱」。 ウィーンの貴族社会を舞台にしたオペラとのことです。 プログラム最後の曲はご存知「美しく青きドナウ」。 ニューイヤーでは必ず演奏されるお馴染みの曲ですが、何度聴いても素晴らしい作品ですね! アンコールは、もうおわかりですね? 井上さんがステージに行進して登場したかと思うと、颯爽と指揮が始まって「ラデッキー行進曲」が演奏されました。 会場との手拍子で盛り上がる曲です。 隣の席の女性は、それはもう楽しそうに手拍子していました。 新年にふさわしい楽しいコンサートでした。


これ以前のコンサートノート