♪ Concert Note ♪

2005/ 11/25 Fri.

及川浩治 ピアノリサイタル 「愛の夢」

場所:札幌コンサートホール  Kitara 大ホール
ピアノ:及川 浩治

 2005年最後のコンサートは、及川浩治さんのリサイタル。 及川浩治さんのリサイタルは、デビューの時からもう何度も聴いていますが、一番印象に残っているのは、1998年のPMFで佐渡 裕さんと競演され、2人して唸りながら素晴らしいべートーヴェンの「皇帝」を披露してくださり、アンコールで「ラ・カンパネラ」を演奏されたコンサートです。 
 今回のプログラム内容は、最近リリースされたCD「愛の夢」からショパン、リスト、ドビュッシー、ラフマニノフと盛りだくさんで、とっても魅力的。 及川さん曰く、心の中で響いている言葉は「愛」「情熱」「沈黙」「エクスタシー」だとか。
 前半はショパンとリストを交互に演奏され、お馴染の、ちょっと真面目なトークが入りました。 ワルツより2曲、「革命」「ラ・カンパネラ」「ノクターン第8番」「英雄ポロネーズ」「愛の夢」「ハンガリー狂詩曲第2番」と名曲揃いです。 どの曲も白熱の演奏で、また、唸り声も健在で、会場から「ブラボー!」が連呼されていましたが、私はショパンの作品に関しては、これはリストが演奏したらこうなるのかなと、ふと思ったりしてしまいました。 あまりセンチなショパンは好きではありませんが、ちょっとリストカラーが濃かったような気がします。 休憩時間にワインを飲みながら、はじめさんもそんな風に感じていたと聞いて、何だかもったいないように感じました。 それから、タイトルの「愛の夢」の存在も影が薄かった様に感じました。
 後半はドビュッシーからです。 及川さんのドビュッシーは初めて聴きましたが、表現が深く音色も澄んでいて素敵でした。 ここでも「亜麻色の髪の乙女」「月の光」「金色の魚」「喜びの島」と名曲揃いでした。 前半のショパンとリストの演奏を聴いての戸惑いに対して、この演奏は意外と言ったら大変に失礼ですが、素直に深い感銘を受けました。 今度はオールドビュッシー or ラヴェルを聴いてみたいと思いました。 プログラムの最後はラフマニノフ。 「悲歌」「ピアノソナタ第2番」。 それまでの曲とはある意味違い、これは通の曲だと思います。 冒頭が物凄く格好良くて、惹きつけられるソナタ第2番ですが、ラフマニノフ自身によって1931年には一部削除、改訂をした第2版を出そうとしたと言われている程の大作です。 簡単に言ってしまうと長い。 あらゆる所に卓越した技巧が織り込まれているのですが、これでもか!の連呼のようで、聴いていて、逆に面白みが無かったように感じます。 しかしながら、及川さんの演奏は、やはり申し分なく素晴らしい演奏でなのです。 う~ん、今回のコンサートはここがポイントでした。 人間業ではないと思うような指の動き、スピード、バネ。 「おぉ!」と唸るような演奏なのに何かスパイスが足りない、そんな感じがして仕方がなかったのですが、アンコールで、そんな私の気持ちを一気に吹き飛ばして頂きました。 ラフマニノフのプレリュードより有名な「鐘」を、分厚い音と哀愁のメロディーで切なく歌ったかと思うと、颯爽とショパンのエチュード10-4。 続いて「黒鍵」です。 お見事!
 偉そうに、そして、かなり辛口の感想になってしまいましたが、実際一夜のリサイタルでこれだけの作品を聴かせてくれるコンサートは、なかなか有りません。 トークも交えて、息の乱れもなく颯爽と弾ききるピアニスト及川浩治さんの今後がまた楽しみで、これからもずっと聴き続けたいなと思った一夜でした。

2005/ 11/ 9 Wed.

小曽根 真&塩谷 哲 [デュエット]

場所:札幌コンサートホール  Kitara 大ホール
ピアノ:小曽根 真&塩谷 哲

 2年前にも気になっていたこのコンサートでしたが、ようやく聴く事ができました。 塩谷 哲(しおのやさとる)さんの演奏は倶知安ジャズフェスティバルで聴いています。 小曽根 真さんは、以前見たTV番組のインタビューで、クラシックにも力を入れているとのことでしたので、このお2人が組むとどんな音楽が生まれてくるのかとても興味深かったです。
 そして、実際聴いてみて、文句無しに面白かった!
 まず塩谷さんがステージに登場。 椅子に座ったかと思うとピアノを弾き出しました。 暫くして会場から拍手をしながらステージに向って走り出す人が居て、なんとそれは、小曽根さんでした。 びっくりして見ていると、小曾根さんはステージにひょいと上り一緒に弾き始めたのです。 こういう演出ってクラシックでは無いですね。 2人でノリノリの演奏は聴いていて心が躍るような感じです。 それにしても良い曲を作るなぁと思い聴き惚れていました。 前半は塩谷さんの曲、後半は小曽根さんの曲が中心の構成でしたが、どちらの曲もジャズという範囲を超えていて良い曲でした。
 ソロでは、まず小曽根さんが塩谷さんの作品を演奏。 塩谷さんは会場の空いている席に座って、私たちと一緒に聴かれました。 小曽根さんの音は繊細でかつ野太く、とても説得力のある演奏。 心の中に在るものが伝わってくる素敵な演奏でした。
 後半の塩谷さんのソロでは、小曾根さんの曲を演奏され、小曽根さんは私のすぐ傍の席で感慨深く聴いていらっしゃいました。 印象派を彷彿するような響きで、まるでクラッシックのコンサートを聴いているかの様。 演奏後、小曾根さんが「今の曲、90%は書いた記憶が無い」と言い、「今日の演奏は良かったから、明日もう一回弾いて?」とお願いすると、塩谷さんが「ムリムリ!」って答えていました。 Jazzの曲というのは、2ページくらいの譜面で、あとは即興で膨らませていくものだそうですね。
 1人でも凄いのに、2人で同時に即興演奏しながら、しかもそれがピッタリと合っているのが、私には不思議でなりませんでした。 お互いの信頼関係あっての事だと、小曾根さんもおしゃってましたっけ。
 お2人のトークもとても面白くて2時間半があっという間に過ぎてしまいました。 塩谷さんはSOLTと呼ばれていて、ファンクラブは「お塩ひかえめ」という面白いネーミングが付いています。 熱心なファンが大勢集い、この日の札幌は初雪が降って寒かったのですが、心温まる素敵なコンサートでした。

2005/ 9/21 Wed.

ユンディ・リ ピアノリサイタル2005

場所:札幌コンサートホール  Kitara 大ホール
ピアノ:ユンディ・リ

 2000年にポーランドのワルシャワで開催された第14回ショパンコンクールで、18歳にして史上最年少の優勝者となったユンディ・リ。 その話題のピアニストの演奏を今日初めて聴きました。 キタラの大ホールがピアノリサイタルでほぼ満席になるのは珍しく、開演前から場内は活気に溢れていました。
 気品があってハンサムなユンディ・リが颯爽とステージに登場。 モーツァルトのピアノソナタ第10番からドラマは始まりました。 中学の時に弾いた大好きな曲です。 爽やかで清々しい風を感じる演奏。 続いて、シューマンの謝肉祭。 こちらも大好きな曲。 優雅で情熱的な演奏に、すっかり夢見心地になってしまいました。 先日、発表会のステージで音の鳴らし方に苦労していた私は、ユンディ・リさんの大きな演奏に目が釘付けになっていました。 良い音、演奏を引き出すために、全身を使って、しかし無駄な力を使わず、バネでフォルテを引き出す。 そして、繊細な音も自在に奏でるテクニック。 見ていて大変勉強になりました。 後半はリストのスペイン狂詩曲から。 色々なピアニストの演奏を何度か聴いていますが、何度聴いても凄い曲です。 ピアニストにとってもチャレンジ的な曲なのでしょう。 でも、リさんは余裕のある演奏で、拍手が入らなければ、そのまま続けてショパンのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズに入る感じでした。 凄みのあるリストの曲の後に、ショパンのなんとも言えない繊細で情緒のある音楽の組み合わせは、聴いていてたまりませんでした。 大ポロネーズはダイナミックなフォルテが場内に響き渡ります。 とにかくカッコイイ! ファンが多いのも頷けます。 割れんばかりの拍手に応えて、アンコールは東洋的な響きの曲が2曲演奏されました。 お国、中国の曲なのでしょうか。 どこか懐かしい感じのする美しい曲でした。 拍手が鳴り止まず、何度も何度もステージに現れるリさんの姿を見るだけで、場内はますますボルテージが上がり、その人気ぶりがうかがえました。 終わっても、なお余韻に酔いしれている隣のお客さんに失礼して前を通ってきた私です。 大変な実力と魅力を兼ね備えたピアニストのドラマを堪能してきた一夜でした。  

2005/ 8/12 Fri.

有森 博 ピアノリサイタル2005

場所:札幌コンサートホール  Kitara 大ホール
ピアノ:有森 博

 夏になると有森 博さんのコンサートが聴ける機会が多い。 私にとって有森さんは、音楽の素晴らしさを、ピアノを弾く喜びを、いつも教えてくれる存在。 開演前に、プログラムノートを読んで思わず笑ったのが、”小さいころ、ピアノの発表会の時期になると「今年はどんな曲をもらえるんだろう・・・」と気になって気になって待ち遠しく思っていて、楽譜を渡されて喜んだり悲しんだりしていたのを思い出しました。”と書かれていた事。 発表会の選曲には毎年、苦労する私ですが、先生が選んだ曲という事で真摯に受け止める少年 有森 博さんを想像すると、なんだか楽しい気分になってしまいました。
 最初の曲は、ニコラーエワ編曲のバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」。 有名な曲ですが、ピアノ演奏で聴くのは初めてです。 オルガンのイメージがあまりにも強いので、ピアノ独奏で演奏するのは、かなり勇気の要る試みだったと思います。 続いてリストの曲が3曲。 ハンガリー狂詩曲第2番。 こちらもよく耳にする曲ですが、ラフマニノフのカデンツァ付きということで、途中から聴きなれないフレーズに「あれ?」とびっくりしました! 次は、有森 博さんが、いつかコンサートで弾けることを願っていたという”詩的で宗教的な調べ”の第3曲「孤独の中の神の祝福」。 『信仰心や祈りの世界がファンタジーと膨らんで宇宙的に広がっていく』(プログラムノートより) と有森さんが、おっしゃているようにファンタジー溢れる壮大な演奏でした。 最後は「ラ・カンパネラ」。 言うまでもないお馴染みの曲ですが、手に汗をして聴く事が多い曲でもあります。 それほど、プロが演奏してもミスが目立ち、焦る感じが伝わってくるからです。 有森 博さんの演奏では2回目ですが、今日は少し体調が悪いのかしら?いつもの、のびのびとした音が聴こえてこない... と思っていると、はじめさんも「今日は少しおかしいね」とポツリ。 演奏するということは楽しい事ですが、人前での演奏となると本当に難しい事ですね。 後半は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」。 今回は、こちらに力を入れていらっしゃったのでしょうか。 素晴らしい内容と集中力で説得力のある演奏で、あっという間の35分でした。 アンコールは、いつものように第3部といった感じで5曲も演奏してくださいました。 その度に会場が沸き暖かい雰囲気に包まれ、とっても楽しかったです! 

2005/ 7/31 Sun.

ピクニックコンサート レナード・バーンスタイン・メモリアル・コンサート

場所:札幌芸術の森 野外ステージ
指揮:ネロル・サンティ
PMFオーケストラ

 天気予報の雨マークを気にして出かけましたが、とてもとても暑い日でした。 朝から暑くて、本当に天気予報は当てになりませんが、雨に降られるよりは野外コンサートは快適です。 朝10時開演で終わったのは夜の8時を過ぎていました。 凄いプログラムだなぁと思っていましたが、聴いていると、あっという間です。
 私達は、前日に札幌に入り、朝早くから並んで、芝生の最前列を確保して、ようやく落ち着いて飲むことが、いえ音楽を聴くことができました。 席は、こんなに気合を入れて並ばなくてもそこそこの場所に座れるのですが、会場に近い駐車場があっと言う間に一杯になってしまって、バスで往復しなければならない遠い第三駐車場になってしまうと大変なのです。 何しろ食べ物や飲み物の荷物が重くて...(^^; スタートは、PMFオーケストラ・ブラス&パーカッション・アンサンブルから。 お昼ごろ、あまりの暑さに500円で販売されていた数年前のPMFのTシャツを購入して着替えました。 今年のは2000円。 デザインが素敵で欲しかったけれど500円には適いません。(^^; ”青少年のための音楽会”では札響が登場。 松下 功さんの指揮で赤いドレスがお似合いのソプラノ歌手 宮部 小牧さんが華麗な歌声を披露。 会場の私たちも一緒に歌ったり、リズムを打ったりて楽しかったです。 ”N響メンバーによるアンサンブル演奏会”では、コンサートマスターの篠崎 史紀さんが率いるメンバー5人によるアンサンブルでした。 作品の中に「モーツァルト党」というユニークな題名の曲がありましたが、篠崎さんは大のコーヒー党なのだとか。 面白トークを織り交ぜながら、素晴らしい演奏をされていました。 次はサンフランシスコ・ガールズ・コーラスの登場で、舞台はひときわ華やかになりました。 ハンドベルを使ったり、ダンスがあったり、色々な趣向があって、とっても楽しかったです。 近くに居た英語が達者な70歳のおじ様もお気に召したようで、会場に来た彼女たちに話しかけて、CDも購入していました。 休憩の時にも若い男性が、凄く良かったと携帯で誰かに報告していましたし、今回一番受けが良かったようです。 さて、締めくくりはネルロ・サンティ指揮のPMFオーケストラ。 2時間という長丁場です。 ロッシーニの歌劇から序曲を3曲演奏した後は、レスピーギの交響詩「ローマの噴水」、「ローマの松」、「ローマの祭」という壮大なプログラムを聴く事ができました。 ネルロ・サンティ氏はどっしりとした体格の方で、指揮もどっしりと安定感があり、オーケストラをピシッとまとめています。 はじめさんは「凄い指揮者だ」と感心して聴いていました。 芝生の上で音楽を聴きながら、ワインを飲んだり、美味しいものを食べたりできるなんて幸せです。 今年も素敵な思い出ができました。

2005/ 7/23 Sat.

PMF オーケストラ演奏会

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:準・メルクル
PMFオーケストラ

 先週に続きPMFオーケストラ演奏会に出かけてきました。 
開演前に指揮者の準・メルクルさんが曲の解説をしてくださいました。 特に最初のグラネルト作曲の『カタファルク』の最後に出てくる官能的なメロディーに注目して欲しいと、私達が座っていた席の目の前に置いてあるピアノに向かって弾いてくださいました。 曲名の”カタファルク”とは、名声のある者の亡骸を納めた棺を安置する台座を意味するのだそうです。 単一楽章からなる演奏時間20分の作品ですが、最初は無音。 メルクルさんが指揮し始めて何拍目かにそっと音が奏でられました。 次第にテンポが速くなり、パイプオルガンまで加わるダイナミックな音に変わり、感極まったところで、先ほどピアノで奏でられた美しいメロディーが現れ静かに幕を閉じたという感じです。 会場から作曲者のグラネルト氏が登場し大きな拍手で迎えられました。 続いて、ラヴェルの『ダフニスとクロエ 第2組曲』です。 メルクルさんのお話では、とても難しい作品で「挑戦する気持ち」で臨んだとか。 「夜明け」「無言劇」「全員の踊り」と3曲続けて演奏時間18分の作品ですが、音が鳴り出した途端に、その美しい輝き、音の広がりに包まれます。 流石はラヴェル! まさに「オーケストレーションの魔術師」です。 メルクルさんは、オーケストラの美しい色彩感を引き出す屈指の指揮者だとプログラムノートに書いてありましたが、メリハリがあって目も耳も離せない指揮です。 あっと間にクライマックスのの踊り狂って倒れるシーンに来てしまいました。 もっと聴いていたいと思う美しい曲、そして演奏でした。 ブラボー! 休憩を挟んで、最後はR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。 50分という大作です。 「英雄」とはシュトラウス自身のことで、私たち日本人の感性では「えっ」と驚きますが、自己讃美的な「音楽自叙伝」を34歳にして書いたのですから、その洒落っ気と才能に脱帽します。 何度か聴いていますが、何度聴いても良い曲だなぁと思います。 コンサートマスターのヴァイオリンソロがことのほか美しく、聴き惚れました。 華麗なオーケストラで語られる壮大なドラマ。 メルクルさんの切れのある指揮で、こんなに会場内が静かでスムーズに行われる演奏会はめずらしいと、はじめさんが言っていた程。 魅力的な指揮者、メルクルさんでした。 今宵のPMFオーケストラも聴き応えがあり面白かったです。 

2005/ 7/16 Sat.

PMF 2005

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:サッシャ・ゲッツェル
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
PMFオーケストラ
PMFウィーン(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席奏者)

 今年、キタラで聴く初のPMFオーケストラ。 土曜日ということもあって、コンサートホールは大勢の人で賑わいました。
プログラムは、ベートーヴェンが唯一残したヴァイオリン協奏曲。 「運命」や「田園」と並行して構想を練っていたといわれています。 ロマン・ロラン曰く「傑作の森」の真っ只中に書かれた作品だけあって、古今のヴァイオリン協奏曲の王者たる貫禄のある作品でした。 ソリストのライナー・キュッヒルさんは、叙情的な美しさに溢れるこの作品を指揮者のゲッツェル氏の小気味の良い指揮で見事に演奏されました。 小編成のオーケストラも透明感に溢れる音で素晴らしいハーモニーに場内は満たされました。 後半は、マーラーの交響曲第1番「巨人」。 前半とはうって変わって、大編成でステージの上は大勢の奏者が登場。 ウィーンフィルの首席奏者も、ソリストのキュッヒル氏も加わり、スケールの大きな演奏になるであろうことを期待して聴き入ります。 夜が明けてカッコーが鳴き出しました。 とても心地の良い、神秘的な響きです。 静かな第1楽章から力強く快活な第2楽章へ。 そして、大好きな第3楽章。 テーマは一度聴くと、つい口ずさみたくなる不思議な魅力があります。 このテーマを様々な楽器が後から後から重なって、重厚な音の渦に呑み込まれそうになります。 そこへ嵐のような第4楽章。 シンバルのすぐ後ろに座っていた私は思わず「わっ!」と声が出そうになりました。 それにしても、指揮者のゲッツェル氏の指揮ぶりは凄かった。 50分に渡るこの曲ですが、途中スタミナが持つのかと思う程の熱演ぶりに心から感動しました。 その指揮に応えてPMFオーケストラも素晴らしい演奏でした。 拍手の嵐。 スタミナを消耗しきっっているはずなのに、何度もステージ挨拶に登場のゲッツェル氏。 アンコールはありませんでしたが、観衆も奏者も皆がニコニコ顔になるコンサートって、やっぱり何よりのご馳走ですね!

2005/ 6/22 Wed.

青柳 晋 ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:青柳 晋

 以前のコンサートの時にもらったチラシの中にあったコンサートです。 音楽雑誌でよく見かける名前だったことと、プログラムの内容に惹かれて、聴いてみたくなりました。 そんなわけで、青柳 晋さんの演奏を聴くのは初めてです。 コンサート前に読んだ音楽雑誌「ショパン」のコラムに面白い記事が載っていました。 「無免許な人」というタイトルに思わず笑ってしまったのですが、運転免許を取得していない事が長年のコンプレックスになっていて、自動車学校に行く時間は今までになく、これからもないだろうと。 そのくせ、どこかで時間をとれないかとスケジュールとにらめっこしているなんて、なんとも面白いキャラクタで、出かける前からますます楽しくなりました。 プログラムの前半はジョン・フィールドのノクターン6曲が占められています。 ジョン・フィールドは、ショパンに多大な影響を与えた「ノクターン」という音楽の形式を初めに確立した作曲家。 今回は、その「ジョン・フィールド/ノクターン集」というCDの発売記念のコンサートでもありました。 実はフィールドの名前は存じていましたが、音楽は聴いたことがありません。 ショパンも涙したという旋律。 いったいどんな音楽なのだろうと、耳を済ませて聴き入ると、まず優しく暖かい。 暖かいハーブティーを飲んで「はぁ」となるような安堵感と芳しさが感じられました。 夢見心地の後は、ショパンの代表的なポロネーズ2曲。 「幻想」と「英雄」。 ん~、この組み合わせは素敵です! 哲学的で精神的崇高さを持ち、どこか儚げでありながら、クライマックスは華やか。 私もいつか弾いて見たい憧れの曲ですが、果たしていつになったら弾けるのか見当もつきません。 「英雄」は近い将来、弾きたい曲リストに入っているんですけどねぇ。 青柳さんの演奏は、音の幅が非常に広く、繊細でダイナミック。 堂々と威厳に満ちていて聴き惚れました。 コンサートの後半はオールリスト。 超絶技巧練習曲の第9〈回想〉・10・11〈夕べの調べ〉。 3曲連続演奏です。 この組み合わせも魅力的でした。 エレガントな〈回想〉、そして個人的に大好きな曲、激情の嵐のような10番。 シューマンが絶賛した高貴な〈夕べの調べ〉。 10番の熱演の後、汗をハンカチで拭いていましたが、観客席からはため息が漏れていました。 3曲弾き終えて、ようやく拍手できた!という感じ。 ラストはハンガリー狂詩曲 第2番。 最も知られている曲。 メランコリックな前半と後半の急速で華やかなパッセージの組み立て方はリストならではですよね。 聴く者の魂を奪うような曲、そして青柳さんの素晴らしい演奏。 大きな拍手に応えて、アンコールの最初はフィールドのノクターン。 また叙情的な世界に導かれます。 2曲目は、リストのハンガリー狂詩曲の10番。 グリッサンドがたくさん出てきてピアノと戯れているような10番も面白かった。 後半は急速なテンポでで華やかで技巧的。 やっぱりリストだなぁと思いました。 久しぶりの小ホールで聴くピアノは、大ホールで聴くより身近な感じがしました。 青柳 晋さんの「無免許な人」を読んで感じた人柄、なるほどと思ったコンサートでした。

2005/ 4/16 Sat.

上杉春雄 ピアノリサイタル 耳で聴く情景

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:上杉 春雄

 医師としてピアニストとして活躍している上杉春雄さん。 2年前に再デビューコンサートを聴きましたが、今回の演奏会は以前よりもっと感動的でした。 音楽する喜びに満ち溢れた気迫のある演奏で、上杉さんの思い描く情景が見えたように思います。 「耳で聴く情景」とありますが、「作曲家が音の向こうに実際の絵であれ、心象風景であれ、何かの情景を見ていた」と感じる作品を選んだとのことです。
 最初はメシアンの前奏曲より5曲。 2年前にもメシアンの「幼児イエズスに注ぐまなざし」を聴いて印象深く記憶に残っています。 メシアンは音を色で感じる作曲家であることで知られていますが、その神秘的な響きが美しくホールに流れ出しました。 タイトルも「軽やかな数学」、「夢の中の漠然とした音」、「静かなる不満」など面白いなと思いました。 最後に演奏された「風に映る影」はドビュッシーの「水の反映」を意識したかのような曲。 薄青色の風が吹き抜けて爽やかで素敵な曲で気に入りました。 今回も上杉さんのメシアンへの想いが熱く伝わってきました。 続いて、リストの「オーベルマンの谷」。 低い音がどんどん下に沈む事を繰り返し、暗く、絶望的な出だし。 やがて谷底から自力で登りいく風景が描かれ、ヴィルトゥオーゾ リストならではの華やかで技巧的な音楽が繰り広げられ、圧倒されます。 前半の最後はラヴェルの鏡より「鐘の谷」。 この曲の演奏もまた素敵でした。 リストの後にこの曲を持ってくるプログラム構成にもなるほどと思わされました。 静かに澄んだ鐘の音は、はかなげな哀愁が漂ってきて、リストの鐘とは対照的。 無人の谷にこだまする鐘の音にラヴェルの心情が反映されているのでしょうか? 
 後半のプログラムはムソルグスキーの「展覧会の絵」。 コンサートでも何度も聴いている大好きな曲です。 上杉さんは、一音一音に心を込めて丁寧に、そして温かみのある音で綴っていきます。 構成が素晴らしい曲ですが、弾き手に魅力がないとダラダラと流れてしまう曲でもあります。 上杉さんの演奏は実に明瞭! 終始歌いながらピアノと向き合い、時には唸り声と共に緊張感の有る音が鳴り響きます。 どの曲も素晴らしい演奏で、あっという間に「キエフの大門」を迎えてしまいました。 はじめさんは「今までの中で一番良かった」 と喜んでアンコールに期待が高まります。 先日TV放送された時に見た上杉さんの「病院歩き」。 患者さんのもとに足早に向かうような歩調でステージに何度も現れ、なんと6曲も弾いてくださいました。 「トロイメライ」 ショパンのマズルカなどの小品に加え、得意の「おてもやん(奥村一)」や「ブギウギエチュード(モートン・グールド)」など、面白い演奏が飛び出して素敵なアンコールでした。 誠実で暖かいお人柄が反映して、良い演奏会に出会った事に感謝です。 これからも医師としてピアニストとして、その類い稀な才能を発揮して活躍してください!  

2005/ 3/29 Tue.

ケマル・ゲキチ ピアノリサイタル

場所:ルネこだいら(東京・小平市民文化会館) 大ホール

 不覚な事に、ケマル・ゲキチというピアニストを私は今まで知りませんでした。 今回、リストのシンポジウムに参加する事で、インターネットなどで調べてみたところ、1985年のショパンコンクールで優勝候補とされながら審査員の意見が分かれ本選に残れなかったというのは有名な話のようです。 1985年の優勝者はブーニン。 その記憶は強く残っていますが、あの時コンクール史上に残る事件が起きていたとは! 聴衆に圧倒的な支持を受けて、その後世界中で活躍し、現在はフロリダ州立国際大学の教授でもあるのですね。
 この日はシンポジウムの後、そのゲキチのオールリストプログラム。 「ダンテを読んで~ソナタ風幻想曲」からです。 リストがダンテの『神曲』を読んで大きな感銘を受け、ピアノで「読書感想文」を表現したという作品だけあって大曲。 様々な情景を描写するゲキチの演奏。 音の幅が大変広く、聞き耳を立てないと聴き取れないようなピアニッシモ、強烈なフォルテ。 のっけからゲキチの音世界に惹きこまれていくようです。 リストはシューベルトの影響も大きく受けて、沢山の歌曲をピアノ曲に編曲していますが、その中から「おやすみ」と有名な「鱒」の2曲。 歌声をもピアノに置き換えてしまうリストの才能とゲキチの演奏にうっとりしました。 次はセミナーで盛り上がった話題の!?「森のざわめき(ささやき)」、そして「小人の踊り 」の2つの演奏会用練習曲です。 何度か譜読みしていますが、2曲揃えて演奏したい身近な曲です。 しかし、何度も聴いている曲ですが、今宵のこの曲は何か特別な印象でした。 私のイメージしていたこの2曲は可愛らしいタイプの曲想でしたが、午前中のセミナーを聴いて、ある出来事で打ちのめされたリストの「絶望」や「怒り」が背景にあるとのことで随分イメージが変わってきました。 そんな気持ちとは裏腹にゲキチの奏でる音のなんて多彩なことでしょう。 「ささやき?」「ざわめき?」と揺れる間も与えてくれない演奏。 受身で聴いてはいけない、聴き手も積極的に音楽に参加しなさいという感じになりました。 続いて「詩的で宗教的な調べ」より「葬送」。 この演奏もインパクトがありました。 まだまだ出るぞ、いくらでも出るぞというフォルテ。 ピアノってこんなに大きな音が出せたっけ?と思うほどの凄まじさ。 最晩年の曲、「忘れられたワルツ」第2番。 そして昨年ワッツの演奏で印象深かった「死のチャールダーシュ」。 ワッツの時はなんて難しい曲なのだろうと思いましたが、ゲキチの演奏にはそういう感じが全く無い事にまず驚きました。 難曲をいとも軽々と弾いているような印象で聴かせてくれます。 リストは「無調」への道にも向かっていたのですね。 この曲は当時はあまりにも斬新で1954年になってようやく出版されたのだそうです。 ここまでで前半! 聴きごたえありました。 後半の濃いプログラムを聴いたら一体どうなるのかしら? 後半第一曲目は、修道院に入ったリストが書いた「伝説」。 〈小鳥に説教する〉方も〈波を渡る〉方も大好きな曲。 セミナーでオーケストラ版を聴きましたが、まさにオーケストラ的な発想に満ち溢れ、神々しい作品。 そして演奏です。 〈波を渡る〉を聴くたび、映画の「十戒」のシーンを想い出してしまう私です。 セミナーでリストはハンガリー人ではなかったというのも驚きでした。 そのためルーマニアのジプシー音楽をハンガリーの民族音楽だと勘違いして書かれたのが、有名な「ハンガリー狂詩曲」。 プログラムは第11番 イ短調。 民族楽器チェンバロンの音を模した哀愁の漂うトリルが印象的な曲です。 ラストは、ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」。 史上最高のピアニストとして最も油ののっていた時期の作品だそうで、超絶的な難曲。 大曲で、あのメロディーが出てくるまで、いつになったら出てくるのかという気持ちで聴いていました。 そして、いよいよ来た! わぁ、見えないくらい速い指。 10本以上あるように見える。 音楽に合わせて身体が一緒に反応してしまうくらいゲキチの演奏はゾクゾクとし魅力的。 本当に一人で演奏しているのかしら?と目を疑いたくなってしまいました。 ブラボー!! ゲキチの演奏は力強さと美しさがあって見ていても惚れ惚れとしてしまいます。 東京まで来た甲斐がありました。 アンコールはシューベルトの歌曲から「魔王」と「セレナーデ」。 まるでそこに歌手がいるかのような演奏です。 もっと聴かせて下さいの反応に、時計をさして「もうこんな時間だから」と笑うゲキチさん。 神々しいまでの演奏の間に見える笑顔がとても素敵でした。 

2005/ 3/29 Tue 30 Wed.

フランツ・リスト ~その深遠なるピアノの世界~ 第21回全国研究大会

場所:ルネこだいら(東京・小平市民文化会館) 

野本由紀夫 講演 3月29日(火)10:30~12:30 大ホール
テーマ「リストの真実~原点版と隠された奏法~」

 リスト研究者、野本由紀夫氏による講演は面白くて大変ためになりました。 特にヘンレ版とブダペスト版を比較し、その特徴や問題点、使う上での注意点などを解説していただきました。 私もよく使う版だけに、びっくりする事が続出! 「楽譜の読み」は基本中の基本であるが故に、リストの楽譜の書き方の特徴など、知らないまま勉強していたら大変な事だと驚きました。 例えば、リストは、ほとんどrit.と書かないとか、ペダル記号は、離す記号とペアではないなどなど、楽譜としての正確さよりも、それを見た時(見ながら弾くとき)の印象を第一に考えられているそうです。 リスト自身がピアニストであるが故の記譜法というものを理解しました。 また、リストはハンガリー人とばかり思っていましたが、実際はハンガリー人ではなかったということ。 何故にリストはハンガリー人を名乗ったのか、何故、37歳でピアニストを引退、有名な作品はその後のものが多いのか、普段あまり語られること無く、誤解されているリスト自身の事について教えていただきました。 また、曲名の訳で解釈が多大に変わるという例として、2つの演奏会練習曲の第1曲の「森のざわめき」についてとりあげられました。 ドイツ語では、騒々しい時などに使われる "Waldesrauschen" 。 しかし、日本では、通常「森のささやき」と訳され、私のイメージの中にも「ささやき」が定着しています。 ところが、この曲を作曲した当時のリストは失意のどん底で、自筆楽譜の書きかたも「ささやく」という印象のものではないことなどから、「ざわめき」と解釈する方が正しいと思われるという事でした。 ふと、シンディングの「春のささやき」を思い浮かべました。 あの曲も訳によっては「春のざわめき」となっていて、どちらが正しいのかと思ったことがありました。 「ささやき」と「ざわめき」では大いにイメージが変わります。 今回のシンポジウムではこの、「森のざわめき」が一番盛り上がりました。 多分どちらが正しいか、結論はでないでしょう。 大切なのは、曲が書かれた背景を知ること、そしてそれを知った上で演奏者自身が自分なりに解釈して、その解釈で演奏することだというお話でした。

シンポジウム リスト ~その深遠なるピアノの世界~ 13:30~16:00 中ホール
司会/児玉幸子
パネリスト/芦川紀子、小林 仁、神野 明、野本由紀夫

 4人のパネリストの方々のそれぞれのリストに対する想いを聞かせて頂きました。
音楽学・西洋音楽史を研究されている芦川紀子氏による「ビーダーマイヤー時代と旅するヴィルトゥオーゾ」
ビーダーマイヤー時代なんて初めて聞きましたが、1815年から1848年の間を、文学史、文学上でビーダーマイヤー時代というそうです。
オーストリーでは「古きよきウィーン」を語るイメージだとか。 リストは、その時代に花開いたピアノの達人。 演奏会を一人で一晩とりしきるリサイタルを始めたのもリスト。 様々な音楽をピアノ曲に編曲して広め、ベートーヴェンの交響曲をピアノで演奏することで、ピアノがオーケストラに匹敵する響きを獲得し、ピアノ音楽に多大な影響をもたらしました。 
 野本由紀夫氏が、グールドの演奏でベートーヴェンの「運命」ピアノ版のLPの中にピアノスコアが入っているのを持っていたと話されていましたが、私も中学の頃に同じLPを持っていて、野本氏と同じように衝撃を受けました。 今現在弾いても難しいのに、当時はレッスンに持っていこうかなどと無謀な考えを持っていたのを思い出しました。
 午前中に行われたアンケートの集計結果も発表になり、「最初に弾いたリストの曲」で一番多かったのは「愛の夢第3番」でした。 私もそうです。 「リストの代表作は?」では、ほとんどの方が「ロ短調ソナタ」と答えていましたが、やはり私もそうです。 ここで、ピアニストの神野 明氏が熱く語り、一部を演奏して下さいました。 小林 仁氏は、原曲と編曲のどちらが勝っているか?などを語られ、いくつか演奏して下さって興味深い感想を述べられました。 私が真っ先に頭に浮かぶのは、「ラ・カンパネラ」。 パガニーニの原曲からあれだけの曲に仕立て上げるリストの才能に脱帽します。 シューベルトの歌曲なども積極的にピアノ曲に編曲したリスト。 自作の他に膨大な編曲を残したのは有名な話ですね。

小林 仁 公開レッスン 3月30日(水)10:30~12:00 大ホール
曲目 ベートーヴェン:英国国歌による7つの変奏曲 ハ長調 WoO.78
    リスト:2つの演奏会用練習曲より 森のざわめき(ささやき)

 オーディション本選から選抜された生徒さんだけあって、素晴らしい演奏でした。 最初は小学5年の男の子が達者にベートーヴェンの変奏曲を演奏し、とても上手でもうレッスンすることがあるのかしらと思う程でしたが、さすがは小林 仁先生。 細部にわたるレッスンで、輪郭がはっきりとしてきて音ががらりと変わり、演奏もぐっと良くなるから驚きです。 また、細やかな指導に対し即座に対応できる生徒さんにも感心しきりでした。 続いて中学1年の女の子による「森のざわめき」です。 演奏に入る前の深い呼吸と柔らかいタッチが素敵でした。 彼女のイメージは「ざわめき」ではなく「ささやき」とのこと。 この年頃の女の子の演奏なのでしょうか、どこまでもロマンティック過ぎて、もう少しシャープな音で弾きたい箇所などは私の好みの演奏ではありませんが、繊細で彼女の世界を築いているのだという強い意志が感じられました。 小林先生も、作曲者のその時の心境が必ずしも曲に反映されるわけでは無いので、「ざわめき」と捉えるか「ささやき」と捉えるかは自由で、どちらとも言い難いとの意見でした。 (このあたりは先生によっても解釈が分かれるところのようです) その事に関して、公開レッスンの終わりに野本氏が登場し、野本先生はやはり「森のざわめき」であると思われるが、野本先生が言いたかったのは、「ざわめき」とするか「ささやき」とするかは演奏者の自由かもしれないし、曲が作曲者のその時の心理状態を必ずしも反映するものでは無いかもしれないが、その曲が書かれた背景は知っておいて欲しいとおっしゃっていました。 確かにそれはおっしゃるとおりだと思いました。 いかにリストが失意のどん底にあったとしても、音楽家はその心情の裏側に救いを求めたりする事もあると思います。 本当の正解を知るには、リスト本人に聞いてみなければなりませんからね。 どちらが正解かというより、その曲についてより多くの事を知り自分なりに解釈する事が大切だと思いました。

岡田 将 プレイズ・リスト 13:00~13:45 中ホール
曲目 《泉のほとり》 《牧歌》 《メフィストワルツ第1番》 《愛の夢(全3曲)》 《リゴレット・パラフレーズ》

 公開レッスンの合間の45分という限られた時間の中で、ぴったり45分でこのプログラムを弾き終えた岡田 将さんにまず拍手! 《泉のほとり》 《牧歌》 など全く知らない曲でしたが、美しい曲で優雅な午後のひとときという感じ。 《メフィストワルツ第1番》では、若い感性でエネルギッシュな岡田さんの演奏に好感が持てました。 《愛の夢》は第3番が有名で滅多に全3曲演奏される事がありませんが、はじめさんは3曲聴けた事は有意義な事だと嬉しそうでした。 《リゴレット・パラフレーズ》を熱演し終えて丁度時間になってしまい、「アンコール無し」という状況。 「もう少し弾きたいのに」という心境だった事でしょう。 繊細で大胆な演奏が素敵でした。

ケマル・ゲキチ 講演・公開レッスン 14:00~17:15 大ホール

<講演>
テーマ「リストにおける美学の構造」

 リストはピアニストであり、作曲家、指揮者、著述家、オーガナイザー、プロモーター、教師でもあったという19世紀の巨人。 リストは、その生涯においてどれほど多様な局面から影響を受け、また影響を与えたのかという事が詳しく語られました。 リスト自身はハンガリー人と名乗りながらハンガリー語を話さなかったいいます。 ちなみに、有名な「ハンガリー狂詩曲」も、ハンガリーのジプシー音楽ではなくルーマニアのジプシー音楽なのだとか。 講演ではリストの人物像に迫ります。 晩年のリストはその才能だけでなく人格者としても素晴らしい人であったと語られていますが、彼がどのような人物でどのような生い立ちなのかを通して、「偉大なピアニスト リスト」の真の姿を知ってもらいたいというゲキチ先生の気持ちが伝わってきました。
 幼少の頃のリストは、父親に連れられて各地でそのピアノの天才ぶりを披露する生活でしたが、彼自身はその生活を嫌っていたそうです。 15歳で父親が亡くなりましたが、生活の為にその境遇から抜け出すことはできず、むしろますますそのような生活を強いられてしまう事になったそうです。
 若い頃のリストは、それが小説であれ詩であれ音楽であれ、作品の本質を的確に捉えてしまう才能を持っていたそうで、ありとあらゆる作品に興味を持ち、(おそらくサロンなどで)その作者に対して「あなたのこの作品はこういう事なのでしょう?」という会話をしていたそうです。 その相手は、時にはヴォクトル・ユゴーであったり、ある時はシューマンの「幻想曲」をシューマンの前で演奏して、作品の感想を述べたり、またシューマン自身の感想を聞いたりといった事もあったそうです。 パガニーニ、ベルリオーズ、ショパンとの出会いも大きな転機でした。 この時期、リストは自己の美学を形成しつつあったそうです。
 各方面に才能を発揮し、忙しさの中にあったリストに大きな変化をもたらしたのは身分差別でした。 伯爵令嬢に恋していたリストは、それを伯爵に知られ、身分の違いから稽古を断られ精神的なショックを受けて失踪してしまいます。 世襲制貴族社会では、親が貴族だったというだけで、才能の無い者から、リストのように才能も実力もある者が差別を受けるのです。 そこにリストは大きな憤りを感じ、才能や実力が正当に評価され、つまらない身分差別が無くなる様に世の中に訴えようとしたとの事でした。 世の中への訴え方は人それぞれ方法が違いますが、リストがその為に選んだのがピアノ。 翌年、リストはベートーヴェンのピアノコンチェルト「皇帝」を弾いて見事にカムバックしました。 リストはありとあらゆる事をピアノで表現しようと試みたそうです。 オーケストラの様々な楽器にとどまらず、鐘の音、鳥の鳴き声、人の声などの音、または怒りや悲しみといった心情、自然の情景など。 そしてピアノの可能性を広げるだけではなく、リサイタルという形式を始めるなど、様々な事を生み出していったそうです。 同時に、ジュネーブ音楽院で報酬なしでレッスンをするなど、若い才能を伸ばす努力もあったようです。 そのようなリストは誰からも尊敬される人物だったようです。
 50歳の時、結婚を前に、またしても身分差別による妨害があり、リストは世俗を断って修道院に入ってしまいますが、それからも作曲を続けていこうと思ったそうです。
 
 リストの話を聞き、その作品は彼の生涯や思想と密接に結びついている事を知り、もっと背景を調べて勉強していこうと思いました。 講演の中で、ゲキチ先生は、リストが様々な楽器を模してピアノ作品にした例を演奏して下さいました。 ジプシー音楽に使われるチェンバロンや、トランペット、フルート、イングリッシュホルン、鐘の音、鳥の鳴き声、人の声。 部分部分の紹介でしたが、ゲキチ先生の素晴らしい音に、昨晩のリサイタルの興奮が蘇るようでした。 リストの深遠なるピアノの世界を教えていただきました。

<公開レッスン>
曲目 リスト:リゴレット・パラフレーズ
    リスト:バラード 第2番 ロ短調

 オーディションから選ばれた高校2年の男子生徒が「リゴレット・パラフレーズ」を格好良く披露。 この曲をリストは自分で弾いた事は無く、お金のために書いた曲なのだそうです。 この曲は難しいし、年齢を考えたら十分に弾けているけれども、今はピアノのプロとしてレッスンしますとした上で、ゲキチ先生の注文は「あなたは、今ヴィルトォーゾなのだから、ようやく弾いているという姿を見せてはいけない。 もっと優雅に、楽々弾きなさい」とのこと。 その注文に照れ笑いしながら応える生徒さん。 ゲキチ先生は、大いに誉めた後、どんどん難しい注文を出していく。 時間を忘れて、公開レッスンだということを忘れての熱烈な指導に深く感動しました。 続いて大学1年の女子生徒が「バラード第2番」を演奏。 私には、少し地味に思える曲想ですが、レッスンしていくうちに、またしてもどんどん音が深く、骨格がしっかりとしてきて「あれ?良い曲じゃない」と思えてくるから不思議です。 それほどゲキチ先生の音楽性が素晴らしく、それに応えられる生徒さんの演奏力も凄いなと感心しきりでした。 ゲキチ先生の指導で、ピアノが表現を深め、オーケストラに変化していきます! 公開レッスンの醍醐味を味わいました。

2005/ 2/23 Wed.

ピアノ&指揮 ダニエル・バレンボイム

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール   
Piano&指揮:ダニエル・バレンボイム
管弦楽団:ベルリン・シュターツカペレ

 今年に入ってから初めてのコンサート&キタラ。 しかも札幌初公演のバレンボイムの弾き振り! しかし、この日は雪によるアクシデントでJRが遅れて間に合わないかとヒヤヒヤでした。 バレンボイムといえば、私にとっては、尊敬すべき偉大なるピアニストの1人。 昔ベートーヴェン全集のCDを買う際、どのピアニストの演奏にするか散々迷った挙句に、バレンボイムのCDを購入した事があります。 実はこの話には落ちがあって、その時は高くて、半分までしか買えなかったのですが、つい2年前に残りの半分を購入しようと思って探したところ、時すでに遅し! 残念な事に廃盤でもう手に入らなくなったのです。 バレンボイムは、ピアニストとしてデビューしてから間もなく指揮者としても活躍していたそうですが、指揮者としてのバレンボイムを知ったのは、ベートーヴェンのCDを購入してからずっと後になってからです。
 あたふたと会場に到着すると、天候のせいでしょうか、キタラでは珍しく、開演が予定より少し遅れました。 最初はベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番 変ロ長調。 キタラで「弾き振り」を聴くのは今回で3回目。 いつものようにピアノが縦に置かれてその周りをオーケストラが囲んでいます。 颯爽とした指揮で演奏が始まると、会場は一瞬にして厳かな空気に包まれ、緊張感が漂いました。 強く芯のある音でピアノがオーケストラに溶け込んでいくと、その絶妙なハーモニーに魅了され、本日ようやくホッとした心地になれたのです。 ベルリン・シュターツカペレはベルリンで最も古く、またドイツで最も伝統あるオーケストラに数えられるそうです。 なるほど! ゆったりと楽な気持ちで演奏を楽しめたのは、開演前に飲んだワインのせいでは無さそうです。(^^;  それにしても見事な弾き振り。 右手だけの演奏になる所では左手は常に指揮者。 ピアノ協奏曲の中でピアノを弾いているより、オーケストラとピアノ全体を使って演奏しているといったダイナミックな印象です。  鍵盤などほとんど見ていないかのように、ピアノを自在に演奏しながら、オーケストラをぐいぐいと引っ張っていくその姿は「これぞ弾き振り!」といった感があります。 得意のベートーヴェンを十分に聴かされて観客も興奮収まらないところへ、なんとアンコールが入りました。 それも、モーツァルトのピアノ協奏曲より第2章! 滅多にない事にびっくり。 とてもラッキーでした。 後半はマーラーの交響曲第7番 ホ短調 「夜の歌」です。 PMFでも聴いていますが、演奏時間何と80分という大作です。 時計を見るとすでに午後8時を回っており、帰れるかしらと心配になりながらも素晴らしいハーモニーにのめり込んでいきました。 パーカッションの動きに目が行きます。 「夜の歌」というイメージからしっとりとした感じを持ちますが、この曲はド迫力の連続。 嵐のような凄まじさなのです。 第5楽章まできて、ふと時計を見ると、余市までの最終電車の時間まであとわずかでした。 流石に焦って拍手もほどほどに慌てて会場を飛び出しました。 あの後、アンコールがあったのかどうかわかりません。 とても良い演奏会だっただけに、もう少し余裕を持って聴きたかったなぁ。 今年初の演奏会は行きも帰りも小走りで優雅にはいきませんでしたが、バレンボイムの芯のある強い音を聴く事が出来て、雪害にもめげず聴きにきて良かったと思えたコンサートでした。


これ以前のコンサートノート