2021年、ポーランドで行われた第18回ショパン国際ピアノコンクールで第4位となった小林愛実さんのピアノ・リサイタルに出掛けました。今回で聴くのは3回目のリサイタルで楽しみにしていました。
目次
2025年5月23日(金)7:00pm
札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ:小林愛実
program
● M.ラヴェル:前奏曲
ボロディン風に
シャブリエ風に
● R.シューマン:クライスレリアーナ op.16
第1曲:最も激しい動きで ニ短調
第2曲:とても心をこめて、決して速すぎず 変ロ長調
第3曲:とても興奮して ト短調
第4曲:とてもゆっくりと 変ロ長調
第5曲:とても生き生きと ト短調
第6曲:とてもゆっくりと 変ロ長調
第7曲:とても急速に ハ短調
第8曲:急速に、戯れるように ト短調
intermission
● F.ショパン:3つのマズルカ Op.59
ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 op.58
第1楽章:アレグロ・マエストーソ
第2楽章:スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ
第3楽章:ラルゴ
第4楽章:フィナーレ:プレスト・ノン・タント
encore
● F.ショパン: ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作
キタラのコンサートでは、いつも時間きっかりに始まります。しかし、今日は時間なのに、どうしたのだろうと思いました。開場は、いつもより早く45分前だったので聴衆は余裕を持って席に着いていました。5分遅れてステージに登場した小林愛実さん。何かあったのでしょうか?
プログラムの最初はラヴェルから。最初の「前奏曲」は、パリ音楽院で行われた女子ピアノコンクールの初見演奏の課題とうことで、わずか27小節の作品でしたが、ラヴェルらしい多彩で繊細な世界が広がりました。
ラヴェルというと、「水の戯れ」「鏡」「ソナチネ」「夜のガスパール」などの名曲があり、ラヴェルばかり弾いていた頃もありましたが、本日のプログラムの曲は初めて聴きました。
短い3曲の演奏の後で、険しい表情をしているように私には見えました。そして、袖からなかなか戻られなかったのも気にかかりました。
シューマンの「クライスレリアーナ」は、E.T.A. ホフマンの小説「楽長クライスラー」にインスパイアされて作曲されました。シューマンの二面的な性格を表す「フロレスタン」と「オイゼビウス」という対照的な性格が交互に演奏される面白い作品です。
子供の頃はホロヴィッツが演奏するクリスタルな音が好きでした。そして、大人になってからは舘野 泉氏の、どこまでも続いていくファンタジーなシューマンの世界に惹かれました。今回は小林愛実さんの持ち味である美しい弱音が、メリハリのある深い表現に繋がって、これまでに聴いたことがない「クライスレリアーナ」で素晴らしかった。だから、何かあったのではとの不安は気のせいだと思い前半が終了。
後半も、やはりステージに登場されるのが遅く、はじめさんは「ナーバスになっているのだろうか」といっていました。
作品59の3つのマズルカは大好きな3曲。何度か譜読みをしているので、楽譜が頭にあり聴き入っていました。ショパンに入ってからザワザワとした感じが徐々に増してきたので、やはり今日は何かあったのだろうと思いました。演奏が終わると聴衆には少し微笑まれますが、袖に向かうときには表情が凍り付いているように見えました。
続いて大曲で難曲のソナタ第3番。小林さんの魅力は、あの小さい身体から滲み出てくる凄まじさ、そして、誰にも出せない美しい弱音だと思います。しかし、今日は心が何処かにあるような、はじめさんはCDを聴いているような感じだといっていました。
きっと、アンコールは弾かないのではと思いました。
大きな拍手に応えてステージに登場されますが、とても重い足取りでピアノまでが遠い。それでも3回登場されたときはアンコールにショパンのノクターン遺作が演奏されました。私はどんなに素晴らしい演奏でも、この曲がアンコールに演奏されるたびに、ちょっとガッカリします。しかし、今宵は、もしかすると、1曲でも弾いてくださいといわれ演奏されたのではと思いました。そして、ピアニストって過酷で厳しい職業だなと改めて思った日でした。