2025年5月11日(日)13:30開演
札幌コンサートホール kitara 小ホール
ピアノ:舘野 泉
朗読:的田 牧子
●ベール・ヘンリク・ノルドグレン:小泉八雲の『怪談』によるバラードⅡ(2004年)
振袖火事、衝立の女、忠五郎の話
「舘野泉左手の文庫」助成による委託作品 /札幌・福岡初演
intermission
●パブロ・エシカンデ:ナイチンゲールと薔薇の花(オスカー・ワイルド)
魔女の夜宴(ゴヤを描く)
encore
●山田耕筰:赤とんぼ
●カッチーニ:アヴェ・マリア
目次
前回の札幌公演は2023年の春でした。舘野泉さんは母と同じ歳ですが、母は米寿を迎える前に亡くなりました。数えで90歳になる舘野氏の卒寿記念コンサート。今回も全席完売で、開場前から長蛇の列になりました。
舘野先生のコンサートはずっと以前から自由席ですが、今日は小ホールが満席になるとアナウンスがありました。年配の方が長い時間、立ちっぱなしで待ち、後から来る方は席を探して回るのは大変なことなので、次のコンサートから指定席にしてもらえることを願っています。
舘野先生が脳溢血で倒れる前のこと、女優の岸田今日子さんと「音楽と物語の世界」というシリーズが始まり、それをよく覚えています。特にサティの「スポーツと気晴らし」では、岸田今日子さんの、あの独特の声で「奥さん!」と語られると説得力が半端なかった。
2代目は女優の草笛光子さんだということですが、残念ながらこちらのコンサートは聴けなかった。そして、今回は3代目の的田牧子さんの朗読によるコンサートでした。
フィンランドの作曲家のルドグレンによる小泉八雲の『怪談』によるバラードは、”恋情”がキーワードです。3つのお話は、どれも面白く、そして、聴き応えがある作品でした。
的田さんの気迫のある朗読に応えるように、冒頭から凄まじい音が会場に鳴り響きドキッとしました。御年90歳近い、しかも左手だけでこんな音が出るのか!と驚愕しました。
オスカー・ワイルドの童話「ナイチンゲールと薔薇の花」は、悲しいお話でした。赤い薔薇はナイチンゲールの心臓の血で作られるのですが、ナイチンゲールは胸に棘を刺して、恋に悩む学生のために死んでしまう。学生は、赤い薔薇を持っていったら踊ってくれると約束した女性に薔薇を持って行ったところ、女性はドレスに合わないといい、ダンスを断られます。学生はナイチンゲールが命をかけて作った薔薇を捨ててしまった。
朗読に合わせて演奏されるスタイルでしたが、親指以外はへバーデン結節で曲がっている指だというのに、なんとも軽やかな音、そして軽やかなグリッサンドが何度も鍵盤を上がったり下がったり。はじめさんは、どうして弾けるのだろうと不思議がっていました。
ゴヤの作品は若い頃より歳を重ねてからの作品は重く複雑なものになっています。スペインの政治的な情勢の変化が影響して、生々しい「黒い絵」や、「我が子を食らうサトゥルヌス」を見るとゾッとします。ゴヤが原因不明の病気で聴覚を失ってから描かれたそうです。
こちらの作品はピアノがメインでした。激しく速いパッセージが多く、勿論、左手だけで演奏されました。
25分くらいのオペラのような作品を書いて欲しいとの依頼に、2024年に完成したばかりの作品。それを御自分のものにしてコンサートで演奏するというのは並大抵のことではありません。
常に新しいことにチャレンし続け、ピアノにかける情熱にただただ驚かされ感動します。
あれだけの内容を演奏したというのに、ニコニコ笑顔でアンコールを演奏する舘野先生。「赤とんぼ」がしっとり演奏され、周り中の人が涙を流して聴き入っていました。車椅子でのお迎えの方に「もう1曲」と合図されましたが、その人差し指が曲がっていました。今回は舘野先生のお声を聞けず残念でしたが、何度もステージに的田さんと一緒に登場され、ニコニコ笑顔で観客に応えていました。いつまでもお元気で演奏活動を続けてください。