♪ Concert Note ♪

2003/ 11/21 Fri.

有森 博 ピアノコンサート

場所:小樽マリンホール 
ピアノ:有森 博

 JRで隣町の小樽までコンサートに出かけました。 いつも行く札幌のキタラと違い会場は雑音が多く、ちょっと落ち着かない雰囲気でしたが、それ以上に有森博さんの演奏が素晴らしくて何かと励まされたコンサートでした。
 ドビュッシーの小品4曲から始りました。 最初は「月の光」。 透明で静かな音が重なり合って、美しく優しい空気が生まれてくるような感じです。 ”ピアノのために”より「プレリュード」も、柔らかい印象。 ドビュッシーがピアノの可能性を追求したという曲です。 冒頭から鋭い音とリズムで入り、絢爛豪華に弾ききるというイメージがありますが、意表をつかれたような、ゆっくりと柔らかな演奏に新鮮さを感じました。 続いて「水の反映」。 この曲ははじめさんのお気に入りですが、今までコンサートで聴いたことがないので隣の席でワクワクしている様子が伝わってきました。 もちろん、私もです。 きらきらと水が光に反射して輝く美しいアルペジオ、波紋がいくつも広がっていく様には溜息がでます。 次は「花火」。 最近、プレリュードの第2集を聴く機会が重なっていましたが、この「花火」も含めて、ドビュッシーのプレリュードは今後の課題にしていきたいと思っている曲集です。 有森さんの演奏は、音はもちろん、見ても楽しめる演奏ですが、「花火」は圧巻で、すっかり幻想的な気分に浸ってしまいました。 次はベートーヴェンのピアノソナタ第30番。 前回のキタラでも演奏を聴けましたが、無性に弾きたくなってとプログラムに書かれていたのを思い出しながら聴き入りました。 一音、一音が本当に丁寧。 叙情的な作品と有森さんが語り合うような演奏でした。 後半のメンデルスゾーンの「プレリュードとフーガ」は初めて聴く曲でした。 そして、無言歌より3曲をたっぷり歌っての演奏の後、プロコフィエフの「戦争ソナタ」。 以前、聴いた時よりも輪郭がはっきりしたように感じ、演奏に引き込まれていきました。 通路を挟んで子供がシュルシュルと靴底に付いたローラーを盛んに回して気になっていましたが、そんな子供も有森さんの演奏に圧倒された様子で、この時ばかりは静かでした。 素晴らしかったです! サービスたっぷりのアンコール。 右手の人差し指の構えから分かるショパンのノクターン第2番・・。 先日、愛犬と過ごした最後の日に聴かせてあげた曲だったので、再び涙が出てきました。
 次は速くて激しい曲がくるのではと思いましたが、本日のテーマははじめさん曰く「ふわっとした残響を楽しむ」だったのでは?と、まるで、こちらの心情を分かって弾いてくださっているのかなと勝手に思いながらアンコールを楽しみました。 いつもニコニコ顔の優しい有森さんの演奏を聴くと元気が出てきます。 私に足りないものが一杯詰まったコンサート、これからもピアノを愛し勉強していくぞー! ファイトです!!

2003/ 11/ 7 Fri.

イングリット・ヘブラー ピアノリサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:イングリット・ヘブラー

 ピアノ講師になって間もない頃、モーツァルト弾きとして有名なヘブラーのリサイタルを聴いたことがあります。 シューベルトの即興曲の演奏前に、マナーの悪い聴衆をしばし睨み付けて、再び音楽の世界に没頭していったという事が記憶に残っています。 今回はそれ以来のコンサートで、随分昔の事になってしまったなと時の過ぎ行く早さに翻弄されながら出かけました。
 久しぶりに見るヘブラーは、太ったおばあちゃんという感じ。(失礼!) ところが、第一音が奏でられると「えっ!?」という驚きに包まれたまま音楽に引き込まれてしまいました。 偉大なる巨匠が奏でるピアノソナタ第11番 「トルコ行進曲付」。 よく耳にする暖かく優雅なフレーズが心地良く流れていきます。 その馥郁とした芳醇な音は、まるで何年もの間、樽の中で熟成されたウィスキーのように芳しく気品に満ち溢れていました。 「屈指のモーツァルト弾き」と謳われ、1950年代から半世紀にわたって第一線で演奏し続けてきたヘブラー、健在。 流石の堂々たる演奏。 全曲モーツァルトのプログラム自体、聴かせるのが難しく滅多にありませんが、私も以前カザルスホールで聴いたきりです。 ましてやこのプログラムで、これだけ観客を魅了できるピアニストは、そうそう居ないと思います。 モーツァルトのソナタというと中学生の頃、集中的に弾いた経験があります。 楽譜は難しいと思ったことはありませんが、明るく美しい粒で弾くのは難しく、年齢を重ねる毎にモーツァルトを演奏するのは難しいと思うようになっています。 プログラムの最後のピアノソナタ第13番は思い出深い作品。 何度も何度も練習してレッスンを受けても、なかなか”まる”が貰えなかった曲でした。 厳しいレッスンでしたが、変ロ長調の穏やかで暖かい響きは、弾いていると何か癒されている感じがして大好きです。 そういえば、先生に「もう飽きたから違う曲をもっていらっしゃい!」と言われてしまい、結局未だに”まる”をもらっていませんでした。 そんな子供時代を思い出しながらヘブラーの奏でる美しい音に聴き入っていました。 現在はショパンとリストのエチュードをいったりきたりしている私ですが、こういう美しく素朴な音を奏でられる余裕を持ちたいと思います。 アンコールの最後はシューベルトの即興曲。 輝かしく軽やかな音と対照的なダイナミックな和音がとても素敵でした。 もっと聴いていたいとでも言うように、満員の聴衆が熱烈に拍手と賛辞を送っていました。 ピアノに向かう真摯な巨匠の姿に心を打たれたコンサートでした。 

2003/ 10/22 Wed.

マルタ・アルゲリッチ&ネルソン・フレイエ ザ・ビッグ・ピアノ・デュオ

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ&ネルソン・フレイエ

 常に世界から注目されているピアニスト、アルゲリッチと、「静かなる偉大な巨匠」と呼ばれるフレイエの待望のデュオ。 アルゲリッチは昨年のPMFで、フレイエは今年の春に東京公演でソロ演奏を聴いてきたばかりですが、終生の親友と認め合っていらっしゃるお二人の、息の合ったデュオコンサートをキタラで堪能できるという事で、とても楽しみでした。 お二人ともかなり若い時の演奏ですが、LDを1枚持っています。 その演奏も素晴らしいものですが、更に円熟味を増したお二人のステージは、まさに豪華!ではありましたが、印象としては、アットホームなコンサートで、とにかく楽しかったです。 これだけの曲目にもかかわらず、和やかとも言える雰囲気を感じさせるのは、やはりお二人の力量と親密さのなせる技なのでしょうね。
 プログラムの始めは、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」から。 「聖アントーニのコラール」と題された旋律は暖かく、つい口ずさみたくなるような感じ。 円熟期のブラームスの傑作と言われている作品が、息がぴったり、以心伝心の神業デュオで奏でられました。 続いてラフマニノフの組曲第2番。 2台のピアノならではのダイナミックでスリリングなスピード感に圧倒されます。 随所にラフマニノフ節が流れ、ロマンの香り高い曲でした。 20分の休憩を挟み、第1ピアノがフレイエに代わりました。 後半の1曲目は、ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」です。 私の席は、第1ピアノの手の動きが見える席でしたので嬉しかったです。 それにしてもフレイエさんの神業のような手の動きには相変わらず驚きます。 鋭いリズムの激しい曲で、打楽器のような奏法があったりと、目が離せず、あっという間に曲が終わってしまったという感じがしました。 ここで、第1ピアノ側にコンサート用の横に長いイスが縦に2つ並べられて、あらっと思いました。 こういう椅子の配置は初めて見ましたが、続くシューベルトの「ロンド イ長調」は、2台ではなく、連弾の曲だったのでした。 大ピアニストの連弾って、まるで、シュークリームとエクレアが一つのお皿に並んでいるみたい。 見ているだけでとっても贅沢な気分です。 ここではプリモがフレイエ、セカンドはアルゲリッチ。 清らかで優美なロンドでした。 最後の音を弾くと同時にフレイエさんが「くしゅん!」と咳をしてアルゲリッチに謝っていたのが、可愛らしかったです。 会場のお客さんからテッシュか咽あめのようなものが手渡されていましたよ。 最後はラヴェルの「ラ・ヴァルス」です。 ピアノソロでもオーケストラでも聴いていますが、デュオは初めてです。 楽譜の冒頭には「渦巻く雲の切れ目から、ワルツを踊る大勢の人々が垣間見える。 雲が徐々に晴れると、そこには旋回する人々であふれた大広間。 舞台はやがて明るくなり、シャンデリアがffで光り輝く。 1855年頃の宮廷」と書かれているそうです。 グリッサンドが効果的に用いられ、美しくかつ迫力のある効果をもたらしていました。 オーケストラの魔術師ラヴェルならではの豪華な曲に酔いしれました。 そして、アンコールは、なんと5曲も演奏してくださったのです! ラヴェルの「マ・メールロワ」の東洋的な響き、チャイコフスキーのくるみ割り人形から「こんぺい糖の精の踊り」は魔法のように美しかったです。 どれほど心が通じたら、このような演奏になるのかと思わせる素晴らしいデュオに、とても暖かな気持ちにさせてもらいました。

2003/ 10/ 8 Wed.

アルド・チッコリーニ ピアノリサイタル ”銘器ファツィオーリを弾く”

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:アルド・チッコリーニ

キタラへ足を運ぶのは3ヶ月ぶり!なんだか懐かしささえ感じます。 チッコリーニといえば、ピアノ界の巨匠。 名前は存じていましたが、演奏会で聴くのは初めてです。 しかも、イタリアの銘器ファツィオーリでの演奏とのこと。 近代のピアノを徹底的に研究して作られたピアノだそうで、ペダルも4本もあり、解説によると、「音の佇まいが美しい、気品があって、明るい。 伸びる低音は快感ですらある。 高音域のきらきらした煌き、とりわけピアニシモはなんとも花の匂い立つような、華やいだ美しさがある。 色とりどりの花びらが、舞い立って、客席の隅々まで行き渡るかのよう。 ”夢のようなピアノ”である。」とのことで、もう聴かないではいられないと思いました。 このピアノをこよなく愛しているチッコリーニは、78歳のピアニスト。 とりわけ、ドビュッシーの「並はずれた美しさと奥行きの深さ」は世界でも比類のないものと言われています。 プログラムの前半は、ドビュッシーの前奏曲集 第2巻。 全12曲を巨匠は静かにピアノで語り始めました。 ドビュッシーは好きで、私も時々弾きますが、「前奏曲集の第2巻全曲」というプログラムで聴かせるのは、とても難しいだろうな、といつも思ってしまいます。 演奏によっては、途中で寝てしまうこともあります。(^^; 今回は時折、目をつぶって深い年輪を思わせるような音に瞑想めいた気分で聴き入る事ができました。 美しいピアノの音色は香り高くて、一音一音が花びらとなって舞うよう。 12曲のドラマが流れて行き旬欄たる終曲の「花火」でファツィオーリのピアノから火花が舞い立ちました。 弾き終えた巨匠は、何度も客席に礼をしていらっしゃいました。 そういう姿にも心打たれるものがあります。 暖かい気持ちで休憩を挟んで後半はショパン。 作品62のノクターン2曲は、ショパンの魂はもはや地上に無いと思わせるような幽玄的な音楽に感じます。 目立たない存在と言われていますが、 ショパンならではの美しい旋律と巧みな和声に彩られて、トリルが優美に流れていく第1曲が好きです。  最後はソナタ第3番。 ゆったりとしたテンポで真似の出来ない説得力のある演奏。 ゆったりとした中に年輪を感じる絶妙な音のバランス、歳を重ねた時にできる奏法など、もし、私が78歳まで生きられたら、このようにピアノと語っていたいと思う演奏でした。 終楽章はフィナーレに相応しく情熱的で素晴らしい演奏でした。 会場からは割れんばかりの拍手で巨匠を称えていました。 「ピアノと人生」を語る、そんな演奏会でした。

2003/ 10/ 1 Wed.

北欧の調べ

場所:小樽マリンホール
メゾソプラノ:駒ヶ嶺ゆかり
ピアノ:水月恵美子

 コンサートに出かけるのは久しぶりです。 小樽マリンホールは駐車場が少ないので、この日はひとりでJRに乗りぶらっと出かけてきました。 出演の駒ヶ嶺ゆかりさんの歌は、以前ピアニストの舘野泉さんと共演されたので何度か聴いています。 フィンランドに留学して、舘野先生の奥様のマリアさんに師事されたそうです。 一方、水月恵美子さんは、フィンランド国立シベリウスアカデミーで、舘野先生に師事されたというお弟子さんなのです。 館野先生の演奏は、先生が体調を壊されてしまった事もあり、久しく聴いていませんので、今回そのお弟子さんの演奏という事で、楽しみにしていました。
 プログラムの前半はグリーグの歌曲と抒情小曲集でした。 駒ヶ嶺ゆかりさんの、深く豊かな歌声がイプセンの詩による詩情豊かな世界を作り上げていました。 そして、水月恵美子さんのピアノ。 「昔々」「夢想」「トロルドハルゲン婚礼の日」の3曲は館野先生もよく弾かれる馴染みのある曲です。 女性らしく、繊細で抒情豊かな音に心が癒されました。 後半は初めて名前を聞くステーンハンマーの「夏のおわりの夕べ」というピアノ作品が素敵でした。 夏の終わりを惜しむ感傷的な思い、そして人生に訪れた秋の色を思わせた後で、それらを跳ね返すような激しさを感じる曲と3曲聴かせていただきました。 最後はシベリウスの歌曲。 メロディーの美しさと堂々とした風格にシベリウスらしさを感じ、聴いているうちに心が熱くなりました。 北欧は北海道にもよく似ているところもあり、音楽に触れても、どこか懐かしさを感じます。 息の合ったお二人のコンサートに、優しく送り出されるように、素敵な気分で帰途につきました。 

2003/ 8/2 Sat.-3 Sun.

くっちゃん JAZZフェスティバル2003

場所:くとさんパーク
チャリート ウィズ ジャズファンク・バンド
 Vocal:チャーリート/Piano:大石学/Bass:グレッグ・リー/Drums:原大力
ゲイリー・バーツ ミーツ KANKAWA122 アルトマッドネス
 Alto Sax:ゲイリー バーツ/Organ:Kankawa/Alto Sax::
 山田譲/Drums:グレッグ・バンディ/Guitar:和泉聡志/Drums:フユ
塩谷哲トリオ
 Piano:塩谷哲/Bass:吉野弘志/Drmus:山木秀夫
木住野佳子「Siesta」ブラジリアンユニット
 Piano:木住野佳子/Guitar:竹中俊二/Bass:佐藤慎一/Drums:石川智/Percussion:仙道さおり
TOKU
 Flugel houn,Vocal:TOKU/Piano:秋田慎治/Guitar:荻原亮/Bass:佐藤恭彦/Drums:藤井伸昭
ポンチョ・サンチェス ラテンジャズバンド
 Congas:ポンチョ サンチェス/Trumpet:セラフィン アキュラー/Sax&Frute:スコットマーティン/Trombone:フランシスコ トーレス/Piano:デビッド トーレス/Bass:トニー バンダ/Timbales:ジョージ オルティズ/Bongo Tres:サル バスキューズ

 今年で14回になる、くっちゃんJazzフェスティバル。 私は2年ぶりに聴きに出かけました。 2日とも、あいにくの天気でしたが熱心なファンがいっぱい集まって熱気に包まれました。 初日は、プロの部の最後を飾った塩谷哲(しおのやさとる)さんのトリオが最高でした。 塩谷さんといえば、18歳の頃の作曲で「海溝」というエレクトーンの名曲で名前を知っていましたし「SALT」というタイトルだったかしら?そんなCDも持っていまして、いつかライブで聴いてみたいと思っていました。 生き生きとした演奏は、聴いていて本当に楽しかったです。 トリオを結成してアルバムを1枚製作したとの事でしたが、まるで何年も組んでいるように息がぴったりで、塩谷さんも、実はこのトリオでアルバムをもう一枚出したいと言っていました。 相性の良いミュージシャンが集まったサウンドというのは演奏している側も聴いている側も気持ちの良いものですね。 歯切れの良いピアノ、スカッと気持ちの良いドラム、渋いベースが絶妙のサウンドを生み出していました。 まだまだ聴きたい気分でしたが、この後、くっちゃん じゃが祭りとも重なっての花火の打ち上げが華麗に行われ良い気分で終了しました。

 2日目。 朝から雨...。会場に到着するとアマチュアバンドがまだリハーサル中...あれ?どこかで見たことがあると思ったら、なんと先日帯広のエルパソへ行った時に特等席で聴いた札幌のバンド「Latte'(ラテ)」でした。 一度聴いているので親近感があり楽しかったです。 はじめさんは、このバンドのドラマーがお気に入りです。 演奏中、終始 笑顔を絶やさず、もう本当に楽しい!って感じのドラムなんです。 Latte'の音楽を特徴付けているかのようでした。 モントレーからはハイスクールオールスタービックバンドのメンバーの演奏があり、高校生とは思えない演奏にびっくりしました。 もうすぐプロになる学生も何名かいると聞きました。 素晴らしい演奏でしたよ。 その後はプロの部になり、最初は木住野桂子「Siesta」ブラジリアンユニット。 木住野佳子さんのシックでお洒落なCDも一枚持っていますが、このアルバムはよく車で聴いています。 演奏の方は、若いパーカッションの女性に目が行きました。 最初は鈴やマラカスみたいなもので効果音を入れている感じで、すごく沢山の小さな楽器をどんどん持ち替えていたのですが、「なんだか面白そう」が、「え?」になって、「なんだなんだ!」になって、パーカッションソロに至っては、「凄い!一体何者?!」になっていました。 彼女は仙道さおりさんというプレイヤーで、新進気鋭の女流パーカッションとして注目されているそうです。 何種類もの楽器の絶妙なタイミングの演奏が、クオリティの高いサウンドを作り上げていました。 木住野佳子さんのピアノは、とてもエレガント。 ギターの竹中俊二さんも素晴らしいテクの持ち主で素敵な演奏に酔いしれました。 そうそう、ドラムの石川智さんは、小野リサさんのご主人で、会場には小野リサさんもいらしたとか・・。残念ながらお目にかかれませんでしたけど。 続いて、TOKUの登場。 日本人唯一のヴォーカリスト&フリューゲルホーンプレイヤーなのですって。 甘いマスクと美声で若い女性に圧倒的な人気があるそうです。 私は知りませんでしたが、このバンドも楽しくて素敵でした。 TOKUさんが男性ピアニストと見つめ合って歌うのが、ちょっと妖しかったです。  最後がポンチョ・サンチェス ラテンジャズバンドでした。 体格の良い男性がゾロゾロとステージの上に集まって、圧巻でした。 前評判は高かったですが、ラテンという事もあって、会場がどんちゃん騒ぎみたいになってしまったのが残念です。 私としてはもうちょっとシックな感じでフェスの最後を締めくくってもらいたかったなぁ。

2003/ 7/31 Wed.

有森 博 ピアノ・リサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 小ホール
ピアノ:有森 博

 有森 博さんのコンサートは、いつも「夏」という感じがあります。 この日はアフタヌーン・コンサートもありましたが、ブルグミュラー25の練習曲や、有名な小曲が中心となったプログラムで、あっという間に完売し、私は夜のコンサートだけを聴いて来ました。 いつものようにニコニコとして隣のお兄さんのような有森 博さんが登場すると、やっぱり出てくるだけで面白くて、なんだかホッとしてしまう私です。 そんな有森さんですが、ピアノに向かった瞬間に空気が変わります! たとえば ... ピアノという楽器にとりつかれてしまった猫背の宇宙人って感じです。 登場する時のホンワカムードは影も無く消え去って、完全にピアノと一つになってしまうのです。 時々猫背の背中をすっと伸ばしたかと思うと次の瞬間信じられないような劇的な音が飛び出してきたり、その風貌からは想像できないような(失礼!)エレガントなメロディーが流れてきたり。最高の技術だけでなく、表現力に関してもまさに一流の演奏であることは、誰もが感じる事だと思います。
  ロシアの作曲家による作品を中心とした夜の部の最初は、スクリャービンの「24の前奏曲」。 哲学的な音楽が並び、時にはっとするような激しさが漂う24曲でした。 続いてプロコフィエフの「絶望」、「悪魔的暗示」。 いかにもプロコフィエフらしい、面白い曲で、特に「悪魔的」は優しい有森さんがサタンに見えてしまうほどの迫力の演技、ではなく演奏! 休憩をはさんで後半は衣装が変わった事を照れくさそうに登場して、ベートーヴェンの「ピアノソナタ30番」。 ベートーヴェンらしからぬ?軽やかなメロディーで始まるこの曲は、有森さんにとって、ご自身を浄化したり、なぐさめてくれる曲なのですって。 今回、たまらなく弾きたくなった曲だそうです。 そして、編曲物にもこだわりをもっていらっしゃるという有森さんですが、それは、小学生の頃にポール・モーリアが大好きだった事がずっと影響しているのだとか。 そういうことって確かに基盤になったりしますよね...。
 拍手の中、演奏はグルックの「ガボット」(ブラームス編)、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」より(ファインベルグ編)と続きました。 以前、ベートーヴェンの「運命」(リスト編)の演奏を聴きましたが、まさに独りオーケストラです。 でも、今回のチャイコフスキーのは、もっと凄かった! 超人的で圧倒されるような演奏でした。 その後は第3部とも呼べるようなアンコールを5曲。 ドビュッシーの「月の光」。 透明で優しい光にうっとり。 同じく「花火」。 色彩豊かで絶妙な演奏に感動しきり。 次は「アヴェ・マリア」だったでしょうか...。 ぐっと胸にくる演奏でしたよ。 斜め前のご婦人は涙が止まらなかったほどで、私はというと、最近、愛弟子に唐突なやめ方をされ、腑に落ちなくて、ひどく落胆したりしていましたが、ピアノへの愛情に満ち溢れた有森さんのピアノの音を聴いて、癒されたと同時にメラメラとピアノへの情熱に火がついたような、そんな気分になり励まされました。 演奏を終えてニコニコ顔の有森 博さん。 本当にピアノが好きなんだなぁと伝わってきます。 今年も「ありがとう!」

2003/ 7/20 Sun.

PMFオーケストラ演奏会 レナード・バーンスタイン・メモリアル・コンサート

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:チェン・ウェンピン
ピアノ:及川浩治

 あっという間に迎えた最終日。 いつもですと、最終日は芸術の森の野外ステージ。 芝生の上でワインなど飲みながら一日中音楽に浸っているのですが、今年はコンサートホールで行われたため、最後のプログラムを聴きに出かけました。 7月6日に聴いた時から、どれだけ変化しただろうかと興味津々で出かけましたが、こんなに音が良くなるものなのかと、驚くほど素晴らしいオーケストラに成長していました!
 夜の部は、ペンデレツキ作曲「広島の犠牲者に捧げる哀歌」から始りました。 計算された不協和音とでもいうのでしょうか、トーン・クラスターと呼ばれる密集音群が不気味に鳴り響き、怖かったです。 しかし、決して不快ではなく、非常に細かい音をよく粒を揃えて綺麗に演奏できるなぁと思いながら、不思議な音響に耳を傾けて聴き入りました。 次はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。 ピアノを運ぶためのセットが大変で、待っている間、早くあの有名な冒頭 「F・Des・C・B(ドイツ音名)」 を聴きたいとワクワクしていました。 中学時代の担任の音楽の先生から聞いた逸話、今ではピアノ協奏曲の王様のような存在のこの名曲が、作曲当時は恩師に酷評されたという事。 それから、あの有名な冒頭、魅力的な主題がその後一度も登場しないことに、その担任の先生がもったいないと言った事が妙に記憶に残っています。 ピアノの設置が終わり、元気良くピアニストの及川浩治さんの登場。 小気味良い演奏で豪快に優雅に、そして熱狂的なフィナーレとなりました。 ほぼ満員の会場が熱気でいっぱいになりました。 同い年の指揮者のウェンピンさんとの息もぴったり。 若きオーケストラに囲まれて素晴らしい演奏を聴かせてくださった及川浩治さん、ブラボー! 素晴らしい演奏を聴いて、冒頭の魅力的な主題が再び登場しないことに、私はかえって、その魅力が増すようにも感じました。
 後半はリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」。 千一夜物語に題材を採った音楽です。 ハープを伴奏に、コンサートマスターが奏でる艶かしく優美なヴァイオリン・ソロはまるで、物語を語っているようでした。 各セクションの奏者の聴かせどころが盛りだくさんでオーケストラを楽しめる曲でした。 各楽章のタイトル (1.海とシンドバッドの冒険 2.カランダール王子の物語 3.若き王子と王女 4.バグダッドの祭・海・青銅の騎士のある岩での難破・終曲)からも想像していただけると思いますが演奏時間45分の音楽物語でした。 コルサコフは若い時に海軍士官として北米や南米に遠洋航海をしたことがあるそうで、そういった体験からも海や嵐の描写が際立っているのでしょうね。 本当に良い曲をたっぷり聴かせてもらいました。 最後はバーンスタインの序曲「キャンディード」で元気いっぱいに2003年の幕を閉じました。 また、来年までごきげんよう! 

2003/ 7/ 6 Sun.

PMFオーケストラ演奏会

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:ベルナルト・ハイティンク
PMFオーケストラ/PMFウィーン(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席奏者)

今年で14回目を迎えたPMF。毎年の事ですが、初日のコンサートは、チケット完売! 会場は満員で賑やかです。 本日のプログラムは、マーラーの交響曲第9番のみ。 "のみ"とは言っても、途中休憩無しの75分という大作です。 演奏前のプレトークでは、プログラム内容や指揮者のベルナルト・ハイティンクさんについてのお話がありました。 奇遇なことに、ベートーヴェンは「第9」が最後ですし、ブルックナーも「第9」を最後に世を去ったそうです。 マーラーは、厄払いにと9番目の曲に「大地の歌」と名づけ、次に完成した曲に「第9」と命名すると、「第10」を未完成にしたまま、世を去ったというお話。 ベートヴェンは耳がほとんど聞こえなかったし、他の作曲家も亡くなって数年してから初演されたりと、第9という曲は作曲者本人が演奏を聴けない曲でもあるとの事です。不思議ですね。 指揮者のベルナルト・ハイティンクさんは今年初登場ですが、72歳にして実にかくしゃくとした方だそうで、長い時間、練習していてもPMFアカデミーのメンバーは、時間を忘れてしまうほどハイテインクさんの指導が素晴らしいとの事でした。 
さて、いよいよ演奏会の始まりなのですが、曲想は、現世に別れを告げている感じがあり、暗い不安に抱かれた音楽がゆったりと流れ始めました。 すると、どうしたことか音が鳴り始めた途端に目が開かなくなってしまいました。 音に合わせて、まるで揺りかごにでも乗っているような状態で、両隣に座っていた母とはじめさんに笑われてしまいました。 それでも、音はしっかり耳に入っているのですが...。  コンサートマスターのヒンクさんが時々ソロを演奏するのですが、素晴らしい音色です。 PMF創設者のバーンスタインのお気に入りで「僕のヒンクちゃん」と呼ばれていたそうですが、私も大ファンです。 続いて第2楽章は「穏やかなレントラー風のテンポで、いくぶん歩くように、そしてきわめて粗野に」という内容。 第3楽章に入って、ようやく速いテンポになります。 この激しさが続く第4楽章のアダージョを際立たせるあたりは、さすがにマーラーだなと思いました。 プレトークでも、実に美しくて素晴らしい曲ですので、気持ち良くなったら周りに迷惑にならないように眠っても構いませんと、おしゃっていましたが、本当にこのまま眠りにつきたくなるような感じです。 ゆっくりと消えていくように終わっていく最後は、本当に美しくて、会場の誰もが息をころしてその余韻に浸っていました。 この曲を初演した指揮者のブルーノ・ワルターは「青空に溶け入って行く白い雲のような」と評したそうですですが、まさにその通りだなぁと感じました。 PMFオーケストラの皆さんも、まだ今年のPMFが始まって間もないというのに、素晴らしい演奏でした。 特にホルンの演奏は際立っていた様に思います。 最終日にも聴きに行く予定ですが、今からとても楽しみです。

2003/ 6/ 27 Fri.

札幌交響楽団 第458回定期演奏会

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
指揮:クラント・ルウェリン
ピアノ:花房晴美

幸運な事にS席のチケットが無料で手に入ったので、久しぶりに札響を聴いてきました。
キタラに着くとすぐに、BGMとは違う臨場感のある音がどこからか聴こえてきました。 不思議に思うと、数人のトランペット奏者がホールで演奏していました。 札響の方のサービスだったのですね。へぇ、ロビーも良い音がするんだなぁと感心して、開演前も楽しく過ごしました。 大きな曲が並んでいるプログラムのため、いつもより15分早い開演でした。 最初は、ハイドンの交響曲第39番。 交響曲の父であるハイドンは、なんと40年間で107曲もの交響曲を創作している事に驚かされます。 楽器編成が、オーボエ2、ホルン4、弦楽5、通奏低音という内容で、通奏低音以外は皆さん立っての演奏でした。 最前列の席だったため、少し首が疲れましたが、優雅で爽やかな感じがするト短調の調べが心地良かったです。 さぁ、次はお目当てのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。 ソリストは有名な花房晴美さん。 演奏を聴くのは初めてです。 ステージに登場した花房晴美さんは、私の中のイメージとは大きく違っていて、とても小柄で、よく目にする写真よりずっと柔らかい感じがするチャーミングな方でした。 ラフマニノフは、第1番の評判が悪かったため、作曲ノイローゼにかかっていたのですが、暗示療法によって救われ、こんなに素晴らしい曲を作曲したという事に、当時高校生だった私は、ひどく感動した記憶があります。 そして、厳しいピアノレッスンから落ち込んで帰ってきた時に、決まってこの曲を聴いていました。 それこそレコードがすり切れる程に! 裏面にはチャイコフスキーのピアノコンチェルトが入っていましたが、そちらの演奏があまり好きでなかったこともあって、とにかくラフマニノフの2番ばかり聴いていた覚えがあります。 ピアノソロから始まる入りが最高にカッコ良くて、どんなに落ち込んでいても、何か勇気を与えてくれる魔法のような音楽。 花房晴美さんの美しく力強い音で緊張感のある最高の入りに身震いしました。 第1楽章は、オケとテンポが合わなかった個所があって、少しハラハラな気分になりましたが、さすがはプロ。 指揮者のルウェリンさんの愛情溢れる導きで、上手に合わせていくあたりなど、聴いていて大変勉強になりました。 第1楽章が終わったところで、隣に座っていた、はじめさんが「ほうっ」と感心したような溜息をついていました。 第2楽章の憂愁に満ちた美しい旋律を目を閉じて聴き入り、ピアノとオケのかけあいが面白い第3楽章では思わずリズムを心の中で刻みながら楽しみました。 表情豊かな指揮者と花房春美さんの美しいピアノが素晴らしくて、本当に良い曲だと再確認しました。 ブラボー! 後半はプロコフィエフの交響曲第5番。 とても大きな曲でした。第1楽章があまりにも壮大で激しい終わりに「単一楽章なのかしら?」と思ったほど。 それが第4楽章まで続きました。 何が出てくるか分からないような奇想天外な感じがプロコフィエフにはあるように思う私ですが、まさにこの初めて聴く曲にも感じられました。 アンコールはエルガーのセレナーデ。 実はこの演奏が一番良かったかも! 透明感溢れる弦の美しさに惚れ惚れしながら聴き入りました。 聴き応え十分で素敵な演奏会に招待されて、私もますます頑張らねば!と思った一夜でした。

2003/ 5/ 14 Wed.

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル 

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン

 用事を済ませ、慌しくホールの席に着いて、ようやく、本日のプログラム曲を全く知らないままで来てしまった事に気づいたのですが、運悪くこの日のコンサートでは、プログラムを買わないと演奏曲目すらわからないものでしたので、たまにはこういうのも良いかもと思って聴くことにしました。 ツィメルマンは28年前にショパンコンクールで優勝、その頃の私はステレオを買ってもらったばかりで、毎月のお小遣いを貯めては、これぞと思うレコードを厳選して買っていたのですが、そんなレコードの1枚がツィメルマンのものでした。 ジャケットの写真は、ハンサムな青年といった感じで、今とはちょっとイメージが違います。 その頃から、いつかコンサートを聴いてみたいと思っていたピアニストのひとりです。 はじめの曲は....えっと...あぁ、ブラームス!(プログラムが無いので演奏が始まるまで曲名がわからないのです)作品118 は、ブラームス晩年の「内に秘められた情熱」を感じる、とても素敵な小品集です。 特に2曲目のインテルメッツオが好きですが、6曲の構成が、それぞれの曲を引き立てているような味わい深さを感じます。 その穏やかで暖かい響きは何度聴いても感動しますし、今の私にはこういう音が必要なのだと頷きながら聴き入りました。 ブラームスが、そっとピアノに語りかけている囁きのようだったり、まだまだ!と自身を奮い立たせるような情熱だったり。 そんな日々の語りをたっぷりと聴いた後に、流れてきた音楽がベートーヴェンだと気づくまで、ちょっと時間がかかりました。 つい先日、東京でネルソン・フレイエが弾いた、あの強靭なベートーヴェンを感じたピアノソナタ第31番だったのですが、まるで違う曲のように聴こえたのです。 ほどなく、私は幻想的な世界に居ました。 魂に呼びかけるような、その音は、コンサートホールに居ることを忘れてしまい、ちょうど2階席に居た事も手伝って、そこはもう天上の世界でした。 後期の作品は、精神的にもまだまだ弾きこなせないと思っている私ですが、31番は早く弾いてみたいです。 休憩中にロビーで、若い男性が私と同じように感じていた事を連れの女性に語っていました。 彼女の代わりに「そうでしょう!」と言いたかったのですが、ひとりでグラスを傾けていました。 後半はショパン。 静かな語りですが、哀しみと優雅さが加わり、すぐにショパンと分かりました。 即興曲第2番の後は、これもフレイエの演奏を聴いたばかりのソナタ第3番。 格好良いからとか、ベートーヴェンのような激情、男性的な厚みがあるから好きだなんて単純に思っていたのですが、今日の演奏を聴いて、この曲の素晴らしさはそんなものではなく、もっともっと深いものなのだと気づかされました。 とてつもなく深く、哀しく、第1楽章が始まってすぐに感動の涙がこみあげて来てしまいました。 2番にしても3番にしても、琴線に触れるような演奏を聴いたのは初めてでした。 ツィメルマンの風貌と演奏は巨匠そのものですが、年齢的には私とそれほど離れているわけでもないという事を知って、驚くと共に、その表現の深さには驚嘆させられました。 それぞれに魅力溢れるピアニストの演奏を聴いていますが、今宵は詩情豊かで、静かな情熱溢れる演奏に心を打たれた一夜でした。 

2003/ 4/ 20 Sun.

上杉春雄 ピアノ・リサイタル 

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:上杉春雄

 上杉春雄さんが北大医学部に入学された1985年に第1回リサイタルが札幌で開催されたのですが、そのコンサートを聴きに行きました。 あれから18年も経ったのかと思うと月日の流れの早さに驚かされます。 18年前も医学の勉強とピアノを両立されているという事に驚きましたが、現在は現役の医学博士。 毎日、多忙でピアノの練習時間は週に2〜3時間程度なのですって! 「そのような状況で音楽活動するといのは、ピアニストにとってどれくらいまでサボれるのか、という人体実験をやっているようなものです。」という発言を音楽雑誌で読んで、びっくりしたというか可笑しかったです。 しかしながら、両立するということは相当に大変な事ですよね。 第一の問題は『持久力』なのだそうですが、プログラムの後半で握力が切れて和音が掴めなくなるのだそうです。 弾けるという以上に持久力が求められるプロならではの厳しさがありますね。 発表会で一曲弾くのに四苦八苦している自分とはずいぶん違う世界だと思います。 生徒さんの伴奏も合わせれば結構な時間弾く事にはなるのですが... 18年ぶりに聴く上杉春雄さんのピアノ。 医師とピアニストの両立。 そして、今回のテーマである生と死。 "AQUA 水〜生と死の間に流れるもの"という素敵なCDのタイトルにもなっているのですが、聴かずにはいられない要素がたっぷりのコンサートでした。 水にまつわる音楽が好きで、ドビュッシーの「水の反映」、ラヴェルの「水の戯れ」などを勉強中ですが、今回のプログラムにも入っていている、リストの「エステ荘の噴水」もチャレンジしてみたい曲の一つです。 
 プログラムは、ラヴェルの「水の戯れ」から始まりました。 澄んだ音が魅惑的な和声に乗って流れて行きます。やや緊張気味に演奏されていたためか、水の持つ凄みは、あまり感じられませんでしたが、上杉さんの奏でる音は透明感があり美しかったです。 続いてショパンのソナタ第2番。 3番と共に好きな曲です。 上杉さんの「何か逃れられない運命をあらわしているよう」という不安を煽るような緊張感が伝わってきましたし、骨太なショパンが良かっです。 後半はラヴェルの「夜のギャスパール」から始まりましたが、難曲の連続です。 激しい第3曲の「スカルボ」の後にリストの「ラ・カンパネラ」へと続きました。 演奏されたのは、よく耳にするものではなく、ブゾーニ版のカンパネラだと思うのですが、途中からかなり耳慣れないフレーズが現れ、びっくりしました。  面白い編曲で、珍しい演奏が聴けてラッキーです。 そして、優雅な「エステ荘の噴水」。 後にラヴェルが「水の戯れ」を作曲する際に大きな印象を与えた名曲です。 最後はメシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より2曲でしたが、頭の良い方に相応しく、こういう曲が合うのでしょうか、水を得た魚のように生き生きと演奏されていて素晴らしかったです。 ドキッとするような和音が続出するのですが、メシアン独特の旋法による世界が繰り広げられて音楽の懐の深さ広さを感じました。 メシアンは、幼少の頃から音に色を感じていたと言われる人で、こういう曲は聴くというより、観るという感覚に近く、繰り出される音が作る色彩空間を楽しむ事ができました。 地元、札幌の大勢の観客の拍手に応えて、おてもやんなどのユニークなアンコールを4曲弾いてくださいました。 上杉春雄さんの暖かいお人柄からアットホームな感じのするコンサートに好感が持て、一緒に行った母が、また聴きたいと嬉しそうな顔をしていたのが印象的でした。

2003/ 4/ 15 Tue.

ネルソン・フレイエ ピアノ・リサイタル 

場所:東京 紀尾井ホール
ピアノ:ネルソン・フレイエ

 パンフレットによれば、”ネルソン・フレイエはピアノ界の秘蔵品ともいえる存在。 「指の一本一本に小さな脳がある」ほど音楽を知っていて「呼吸するのと同じくらい自然にピアノを弾く」大ピアニスト” だとか。 録音は驚くほど少ないとのことですが、ソロとアルゲリッチとのデュオが入っているLDを持っています。 あのアルゲリッチとピアニスト同士のコンビを組むのですから、興味津々でLDを聴いたものです。 今回たまたま東京で聴ける機会を得ることができました。 実は、プログラムに大幅な変更があり、少々気難しいピアニストなのかしらと思っていましたが、そんな印象は無く、とても幅のあるプログラム内容で面白かったです。 
 プログラムは、バッハのコラール前奏曲から厳かに始まりました。 スケールが大きくて深い演奏です。 続いてベートーヴェンのソナタ第31番。 変イ長調の優しいハーモニーで叙情的な旋律が心地良く流れていきます。 堂々たる第3楽章のフーガが、いかにもベートーヴェンらしく重厚です。 それにしても、ミラクルとも言えるフォルテ! 厚み、迫力がありながら、なお美しく響くそのフォルテは、実に小気味よく、いつまでも耳に残る演奏で、休憩中もついハミングしているくらいでした。 後半の最初はショパンのソナタ第3番。 大好きな曲です。 ショパンの曲にしては珍しいと言えるほどの激しさを持った終楽章は、何度聴いても興奮を覚えます。 この日はたまたまショパン展へ出かけて、プレイエルの繊細な音や、ショパンの華奢な手を見たばかりでしたので、ピアノという楽器の進化と、それに伴って、また演奏者によって音楽がこうも幅広く自由に表現されるものなのかと、不思議な感動を覚えました。 すっかり興奮していた私ですが、ネルソン・フレイエさんは、さらりと次のグラナドスのゴイエスカスより名曲の「嘆き、または夜鳴うぐいす」に入りました。 この曲も大好きな曲ですので、「わ!置いて行かないで下さい」と気持ちが追いつくのに大変です。 やや速めのテンポで、あまり叙情的になりすぎない演奏が、かえって最後にナイチンゲールが美しく鳴く場面を際立てているようで素晴らしいなと思いました。 プログラムの最後は、アルベニスの「イベリア」より《エボカシオン》と《トゥリアーナ》。 民族的な色彩が色濃く、高度なテクニックを要求される華々しい曲です。 ここでもリズムの切れが素晴らしくて、活気のあるリズムを堪能させて頂きました。 そして、アンコールは第3部とも言えるくらいの内容で、曲調ががらっと違った曲を5曲も演奏してくださいました! この曲は!何?とほとんどの人が思ったに違いない面白い曲が続出。 そのうちの1曲はモンポウとすぐにわかったのですが、残り4曲は皆目見当がつかないまま、アンコールだという事も忘れて、ネルソン・フレイエさんの軽妙な演奏に引き込まれてしまいました。 会場全体がすっかり興奮していて、あんなに熱狂的になる日本人を初めて見ました。 素晴らしい演奏への賛辞と、とにかくステージにネルソン・フレイエさんを呼びたいという気持ちがひとつになって、みんな手が真っ赤になるほど、拍手していたようでした。 コンサート終了後、アンコール曲の曲名を知りたくて、しばらくの間ロビーに待っていた人が大勢居ました。 ようやく張り出された曲目は、グルックの「メロディー」と、お国のブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスの「赤ちゃんの一族」という曲集からでした。 賑やかで元気な赤ちゃんだったなとタイトルを見て笑ってしまいました。 秋に、札幌でアルゲリッチさんとのデュオを聴けるのが今から待ち遠しいです。

2003/ 4/ 13 Sun.

横山幸雄 ピアノ・リサイタル ショパン展記念特別コンサート

場所:府中の森芸術劇場 ウィーンホール
ピアノ:横山幸雄

 法事のため東京に出たのですが、ちょうどその日の夜に府中でショパン展記念のコンサートがあることを知りました。 3月18日のリサイタルから約一ヶ月、まさかこんなに早く横山幸雄さんの演奏を聴けるとは思いませんでした。 今回は、ショパン展で展示されている1847年製のプレイエルで、いくつかの作品を演奏されるとのことで、150年も前のピアノがいったいどんな音色なのかしらと楽しみでした。 会場に入ると、ステージ上にプレイエルが置かれていて、どうやら、プログラムの最初の小品に演奏されるのだなと思いました。 81鍵の小さなピアノ。 鍵盤は軽く1mm程度細いそうです。 150年間一度も弦を張り替えていないというのもこのピアノの特徴で、またセットになっている椅子もなんとなく華奢なアンティーク調のものでした。壊してしまわないかと、演奏前のトークで心配されていました。 現在のピアノは鍵盤を完全に戻さなくても次の音が出せる構造になっているのですが、このプレイエルはその前の時代のものであったり、鍵盤の深さや重さが全く違っていて、プレイエルとスタインウェイを弾きわけるのが大変だともおっしゃっていました。 はたしてどうなるのやら....という感じで、さっそく楽しみにしていたプレイエルでの演奏が始まりました。 最初の曲は『華麗なる大円舞曲 Op.18』。 とても繊細で柔らかな音です。 これがショパンが愛したピアノの音色なのかと思うと、もう感無量でした。 そんな繊細なピアノに対して横山幸雄さんのデリケートな演奏が続きました。 
『幻想ポロネーズ』からスタインウェイにチェンジしたのですが、一転してダイナミックな演奏に変わり、こんなに違うのかというくらい、音に迫力を感じました。 プレイエルの残響が短いため、ホールのセッティングをそちらに合わせたのでしょうか、スタインウェイにとっては長めの設定で、それを演奏でカバーする必要もあったと思います。 そういう意味でも本当に2台を弾き分けるのは難しいと思いながらも、そんな難しさを感じさせない素晴らしい演奏に聴き入りました。 間に自作曲を2曲入れて、『バラード第4番』 『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』と盛り上がりました。 特に大ポロネーズは超人的なテクニックで圧倒的なピアノ! はたから見ていると、なんとも軽く弾いているという感じで、私の中の”憎たらしいほど上手いピアノの名手リスト”にもともと入っていた横山幸雄さんですが、更に”憎たらしい度?”がアップしました。 本当に素晴らしく、華々しい演奏でした。 アンコールは、せっかくだからと再びプレイエルの登場、最後までもってくれると良いのですが...と心配顔の横山幸雄さんでしたが、拍手に応えて4曲も弾いてくださいました。 なお、ショパン展の方はこの日が最終日。 時間があれば見る予定でしたが、残念ながら間に合わずがっかりしていたところ、なんと、好評につき1週間延期される事になり、横浜滞在中に見に行く事ができました。 

2003/ 3/ 19 Wed.

上原彩子 ピアノ・リサイタル チャイコフスキー国際コンクール優勝記念

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:上原彩子

 ピアニストにとって世界的に権威ある登竜門の一つであるチャイコフスキーコンクール。 2002年6月に開催されたこのコンクールのピアノ部門の優勝者が上原彩子さんです。 日本人初だけでなく女性初の優勝者という事で、雑誌「ショパン」でもCD付きの特別号を出すなど、大変な話題になったのは記憶に新しい事と思います。 その時の模様はTVでも「モスクワの熱い夏」として放映されましたが、小柄な上原彩子さんがピアノ演奏に挑む姿と、音楽を愛する気持ちに心打たれるものがありました。 今回は、優勝記念コンサートということで思いのほか早く演奏会を聴く機会に恵まれて嬉しかったです。 実際に見る上原彩子さんは、TV放送の時より、もっと小柄な感じがしました。
 プログラムの前半は、チャイコフスキーの「四季」。 それぞれの月の行事や風物の描写、そして、ロシアの自然や風土に対する深い愛情が注がれた組曲で、月ごとにふさわしいロシアの詩が添えられて大好きなピアノ組曲のひとつです。 演奏会では、あまり聴く機会がありませんので、今回、上原彩子さんの演奏で12曲全部聴けるのは本当にラッキーでした。 この組曲を聴いている間、音の美しさ深さに感嘆して鳥肌が立ったり、涙が出たり、また目を開けて聴き入ったり、その幅広い表現力は本当に多くの事を語りかけてくれました。 弱音の滑らかな美しさから、ダイナミックなフォルテまでを自由に操る事ができて初めて成せる演奏だと思いました。 そのテクニックのみならず、歌心もとても豊か。 一音一音、大切に大切に紡ぎだされる美しい音。 特に短調のゆったりとした「ひばりの歌」、「舟歌」、「秋の歌」は素晴らしく、明るく快活な曲とのコントラストが素敵でした。有名な「トロイカ」は、しっとりとした演奏で、いかにも雪の大地を馬が走っている感じが伝わってきました。 12月の「クリスマス」のチャーミングなワルツは、暖炉の暖かい空気感まで伝わってきて、良い気分。思わずワインを飲みたくなってしまいましたが、前半を聴き終えて現実に返ると、自分のピアノに対する姿勢の甘さをひしひしと感じて反省しきり。 普段ならワインを頂くところですが、この日はお水をひとくち飲んで後半も勉強させてもらおうと、いつに無く真摯な私になっていました。 後半は、ラフマニノフ。 まずはプレリュードから6曲。 ラフマニノフは大柄で手の大きなピアニストだったそうですが、それを思い起こさせるかのように、音ががらりと変わりました。 動きが大きく、ダイナミックな鳴らし方です。 圧巻はピアノソナタ第2番。 ピアノコンチェルト第2番などで感じる心を揺さぶる哀愁に満ちた旋律と華麗なピアニズムで、ぐんぐん聴衆の心を捉えて離さないといった感じ。 「大地を揺るがすようなロシアの典型的な鐘を経て、悪魔的な第3楽章に入る。ここでは、もう避けることの出来ない運命の足音が聞かれ...」(プログラムより) そんな野太い曲を目の前の小柄な上原彩子さんが演奏しているという不思議な感覚。 目を閉じるとまるで大柄なロシアの男性が演奏しているかのようです。 アンコールは2曲演奏され、1曲目はクライスラーの「愛の悲しみ」。 実はよく耳にする曲なのにタイトルが出てこなくてしばらくもどかしかったです。(アンコール曲はコンサート終了後に曲名が書き出される事も多いのですが、この日はそれがなくて思い出すのにずいぶん時間がかかってしまいました。) 先日の横山幸雄さんが演奏された「アヴェ・マリア」と同様、素敵なアレンジと素晴らしい演奏でした。 恐らく、「アヴェ・マリア」はリスト編(4月17日補足:横山幸雄さん自身による編曲でした。) 、「愛の悲しみ」はラフマニノフ編だと思われます。 今回の演奏会は色々な意味で本当に刺激的なコンサートでした。

2003/ 3/ 18 Tue.

横山幸雄 ピアノ・リサイタル

場所:札幌コンサートホール Kitara 大ホール
ピアノ:横山幸雄

 前回2000年の12月は、キタラの小ホールでの演奏でしたが、今回は大ホールで横山幸雄さんの華麗なピアノを聴いてきました。 横山幸雄さんといえば、今でも鮮明に覚えているのがショパンコンクールでのTV放送。 まだ19歳の横山幸雄さんの大胆不敵な発言と、その強さがピアノにも反映された演奏に、とても衝撃を覚えました。 優勝候補のケビン・ケナーと、あまりに対照的で、特にピアノコンツェルトでの演奏は、指揮者に合わせて、どのようにでも弾けるからという言葉には、生意気を通り越して凄いなと思いました。そして、ショパンコンクールの後に、岩内の荒井美術館のホールでのリサイタルを聴く機会に恵まれました。 200席の小さなホールですが、その挑戦的な目と、強さを感じるスケールの大きな演奏に圧倒されました。
 前置きが長くなってしまいましたが、今回も素晴らしい演奏会でした。ここ2,3年は作曲にも重きを置いているとの横山幸雄さんですが、プログラムの最初はオリジナル作品の「祈りのバラード」でした。「同時多発テロが起こっている頃で、矛盾に満ちた人間に対する救いの祈りの意味合いが込められている」との解説がよく伝わってくる演奏でした。 ショパンのバラード第3番に続いて、ベートーヴェンの「熱情ソナタ」。 重厚でスリリングでシャープ。 「熱情は、こうでなくては!」と大満足な演奏で前半を聴き終え、休憩では、すっかり上機嫌でワインを頂きました。 後半の最初もオリジナル作品「希望の光は東方より」。 今度のは16のヴァリエーションです。 東洋的な雰囲気が、どことなくドビュッシーのようにも聴こえ、多様に広がっていく世界に誘われました。 そうそう、このオリジナル作品のスコアが出版されているそうです。 難しそうですが面白そうです! さて、プログラムの最後はリストのエチュードから2曲でした。 最初は「ラ・カンパネラ」。 まるで、指鳴らしでもしているかのような余裕の演奏です。 明るく澄んだ鐘の音がホールに散りばめられ、美しい...と思っているうちに、一気にラストスパート。 速い!力強い!周りからは溜息が...。 続いて「超絶技巧練習曲集」から「マゼッパ」。1999年にCD「超絶技巧練習曲集」でリスト賞を受賞されいます。 タイトルからして、技巧的にも空前絶後の至難さが求められる事が想像できますが、シューマンは「リストにしか弾きこなせない」と言ったとか。 そんな曲をただ技巧的なだけではなく、しなやかな美しさと風格を持って演奏されるのですから驚きです。 ひとつひとつの音を並べるだけでも大変なのに、なんて大きな動きで、スムーズに優雅に流れていくのでしょう。 再び、周りから大きな溜息が聞こえてきます。ブラボー! 白熱のリストの後にアンコールでラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が演奏されたのですが、しみじみとした美しさに、またしてもやられたなという感じ。 いつも運びの上手さに勉強させられます。
歓声に応えて、「革命」、「アヴェ・マリア」と、アンコールは3曲演奏されました。 とてもすばらしいコンサートに感謝するとともに、早くも次のコンサートが楽しみです。


これ以前のコンサートノート